節目と自覚−2
こちらを鋭く睨みつけていた眼光は、その低い声を聴いた瞬間に一瞬でピンク色に変わった。早々にこちらから関心をなくして、虞美人は項羽に駆け寄る。
さすがに大っぴらに抱き着くようなことこそなかったが、すぐ傍に寄り添う様はまさに相思相愛だ。
さらにそこへ、1日前に召喚されたばかりのシグルドとブリュンヒルデもやってきた。
「まぁ、項羽将軍殿下と奥方の虞美人さん」
「…シグルドにブリュンヒルデ」
虞美人はやってきた二人に、特に感慨なく返す。神に造られたブリュンヒルデと、神話の人の英雄であるシグルドに対しては、まったく異なる文化圏であることもあり、虞美人はさほど感情を動かさない様子だ。
一方のブリュンヒルデは、全面に喜色を浮かべる。
「お二人のことは聞き及んでおります、長い時の果て、人理にすら正しく刻まれなかったあなたたちが、異聞帯での戦いの末に英霊に昇華され、ついにカルデアで再会を果たしたと。ええ、私たちとそっくりですね、あなた」
「ああ。当方とブリュンヒルデも、マスターの召喚によって奇跡のような再会の叶った身。共に、再会の場を与えてくれたマスターとカルデアへの感謝を武功でもって返そう」
ブリュンヒルデの殺害衝動は、マスターの気質が影響していることなどもあってかなり抑えられているらしく、感情が高ぶらない限り一緒にいてもすぐ殺そうとするわけではないらしい。
シグルドはブリュンヒルデの肩を抱いてそう虞美人と項羽に言ったが、虞美人はあからさまに嫌そうにした。
「…まぁ、サーヴァントとしての契約を受け入れた以上は、この力、あの後輩のために使ってやるわ。でも感謝なんて…」
「うむ、この機が与えられた僥倖、我が機能の許す限り主に返そう」
ツンとする虞美人だが、項羽はきちんとサーヴァントとしての務めを果たすつもりでいるようだ。
似ているんだか似ていないんだか分からないが、隙あらば仲睦まじく寄り添う姿は一緒だ。
すると、それを見ていたアーサーは、おもむろに唯斗の腰を抱き寄せた。いきなり右側に立つアーサーに密着させられ、唯斗は何事かと見上げる。
「…え、どうした」
「彼らがあそこまでイチャついているなら、僕たちもいいだろう?」
「な…っ、」
どうやら触発されたらしい。そういえば、北欧異聞帯でも同じようなことがあった。案外分かりやすいところのあるアーサーだが、さすがに唯斗の羞恥心が暴れそうになる。
しかし、二人の会話を聞いていたブリュンヒルデとシグルドはさらに微笑ましそうな笑みを浮かべた。
「まぁ、騎士王様とそのマスターも、愛を紡ぐ関係なのですね」
「なるほど。立場の違い、あるいは命そのものの違いという点では当方たちと通ずるところはあるが、この戦いの性質、そしてこれまでの旅路を鑑みるに、さぞ多くの苦労の上で、覚悟を決めた二人なのだろう」
「ええ。愛の持つ力のなんたるかを知ることは、人として最も強きことです」
シグルドとブリュンヒルデ、ともに真面目で善良な人柄であるため、その言葉はからかいでも世辞でもないと分かってしまう分、より一層正面から受け止めるには気恥ずかしい。アーサーはにっこりとして、「私も君たちが再会した奇跡を祝おう」と答えていた。
「う…なんだこれ……」
「…あんた本当に変わったのね……」
顔に熱が集中し誰も直視できず顔を覆う唯斗に、虞美人は少し引いたように、そして呆れたようにして言ってから、「ご愁傷様」とだけ言い投げた。