節目と自覚−4
「…立香はさ、将来就きたい職業とかあんの」
「どうしたの、いきなり」
「確かにこの3年間近く、実際に体が年取ったのは1年分だとしても、人理漂白を解決出来たら否応なしに年取るだろ。いくら魔術協会に開位を認められたっつったって、便宜的なもんだし」
「うーん…そういうの考える暇なかった、わけじゃないけど…なんか考えないようにしてたかも」
きっと唯斗には、共感ができない以上、フォローはできない。それならば、もっと先の話をしようと思った。
本来の20歳が得ていたはずのものが得られなかったというのなら、それより先の大人になったときの話をするわけだ。
「学校の教師とかやってそうだけどな」
「え、そうかな。でも俺そんな頭良くないし」
「教職なんて大学で教職コース取ってればいいだけだろ。必要な素質はもうあるわけだし。あ、でも歴史の教師じゃない方がいいかもな」
「えっ、せめて歴史くらいかな、って思ったのに」
「『ギルガメッシュ王は結構笑う人だったよ』とかぽろっと言いそう」
「あ、確かに」
まるで会ったことがあるかのように話してしまうと、実際に会っているのだが、生徒からすれば頭のおかしい教師だと思われてしまう。現在の史学会で認められていない事実も多く知ってしまった。
立香は想像したのか、くすくすと笑う。
一頻りそんな話をしたところで、立香はベッドの背後に手をついて上体をそらす。そのまま天井を仰ぎ見て、またため息をついた。
「…7つの異聞帯を滅ぼして、汎人類史が継続して。俺たちも大人になって、働いて…そうやって、続いていいのかな」
「…、」
「……俺たちの世界って、そうやって続いて、本当にいいのかな」
今回の新規召喚で異聞帯のスカディや始皇帝が来たこともあってか、立香は剪定した世界のことを考えてしまっていたようだ。
中国異聞帯で、秦良玉に言われたこともあるだろう。たくさんの犠牲の末に戦争のない世界をつかみ取った彼らを踏み越えて続くべきだったのか。
始皇帝はそれを認めてくれた。あの世界において唯一の「人」だったからこそ、汎人類史との決着を決闘で行った。
立香は始皇帝のおかげで、以前よりも迷いや葛藤はなくなったように思える。だがこうして、ふとしたときに考えるのだろう。異聞帯の人々のことを、自分たちが奪った世界や命のことを。
「…立香」
「……うん?」
「…ロマニは、時間神殿で、この人類史が続くべきだから、あの終わりを選んだと思うか」
「っ!」
ロマニの名前は、唯斗だけでなく、カルデアの人々は意図的に出さないようにしてきた。それが特にマシュや立香にとって、いまだに深い傷だと知っているからだ。
それを当然唯斗も理解していたが、あえてここで口にした。
息を飲んで、立香は動きを止める。
「ロマニは、この世界が続くべきだからあの結末を選んだんじゃない。ただ、俺たちに託してくれたんだ」
「…唯斗、」
「俺たちは託された。異聞帯を剪定した。それらはこの世界が正しいからとかじゃないけど…でも、より良いものにする義務は自覚しないといけないな」
「…続いて良かったから続いた、じゃなくて、続けるからには良いものにしないといけない、ってこと?」
「そ。俺たちが生きてる間は難しいかもしれないけど…少なくともそのスタート地点を、俺たちは取り戻さなきゃならない」
立香はそれを聞いて、一瞬俯くと、おもむろにベッドの上に上がって膝立ちで動くと、唯斗の後ろにやってきた。
何かと様子をうかがっていると、そのまま立香は唯斗の体を後ろから抱き込んできた。立香の足の間に腰かけているような形だ。
「え、どうした」
「なんか…ほんと、いつになったらこの戦いが終わるのかな、とか、いつ家に帰れるのかな、とか…先の見えないことばかりだったけど、唯斗のおかげで、ちょっと前が見えた。何より、唯斗がこうやって俺といてくれるのが、本当に嬉しくて…あー、なんかここんとこ、唯斗といると、涙腺緩んでばっかだ」