節目と自覚−5


少しだけ声を震わせながら、立香は唯斗を抱き込む姿勢のまま唯斗の左肩に顔を埋める。後ろから肩に目元を押し付けた立香の後頭部を撫でてやると、立香はさらに「うー」と情けない声を発する。


「唯斗優しい…すき……」

「はいはい。売約済みで悪いけど」

「くっそ〜、マジでグランドオーダーの最初から唯斗がこんな感じだったら、アーサー王に渡す前に全力で狙ったのに…」

「立香やアーサーがいたからこうなれたんだろ、逆じゃねぇか」

「そうなんだけどさぁ〜」


最近は、ごくたまに立香がこうして口説くようなことを言ってくるのにも慣れた。こういう距離の取り方は珍しいが、それは立香の周りが、カルデアスタッフという大人か、すでに死んだ英霊たちしかいないからだ。
残るは唯斗とマシュだけだが、マシュにはとてもそんなことは言えないだろう。


「…てかマシュがいるだろ」

「マシュと唯斗は別の好きなの〜」


そう言いつつ、立香はさらにぐっと抱き込む力を強める。体の前に回った筋肉質な腕に絞められ少し苦しかったが、それよりも、尾てい骨あたりに当たったものに動きが止まる。


「………おい」

「…………マジでごめん」


どうやら意識外だったらしい、立香の声は固い。やってしまった、というのが丸わかりだ。
押しあてられたそれは、意識に上ったからかより硬度を増し、さすがに気恥ずかしくなる。


「…立香?」

「や、マジでその、これは、あの、ご無沙汰だったから!ほら、さすがにボーダーでは、できないじゃん!?だから体感2か月半ぶりに一人でできるっていうか…なんかそう思ったらやばいっていうか…」

「知るかドアホ」


唯斗はどす、と後ろに肘で殴り立ち上がる。効いていないようだが、立香もさすがに顔を赤くしていた。


「…ほんとごめん、唯斗の匂い嗅いでたらつい……」

「それで謝ってるつもりかおい」

「まぁほら、これを機に唯斗も今晩は楽しんできたら!?俺たち明日はオフじゃん!?」


立香は露骨に話を逸らす。ジト目を向けると、ついに観念した。


「……反省してます」

「ならいい」

「…うん、ほんと、今日はたまたまだから。さすがに俺も、日々唯斗で抜いたりしないよ、秘蔵のやつあるし」

「聞いてねぇわ」

「じゃあほら、俺は急用できたから、今日はもう大丈夫。ありがとね。唯斗もご無沙汰でしょ?」


どうやら本当に大丈夫らしい、立香はすでにある程度すっきりした顔をしていて、これからもう少しすっきりするそうだ。
男友達とはこういうものなのか、と思えば特に不快感などはないが、ご無沙汰扱いは癪に障った。


「…なんでご無沙汰とか思うんだよ」

「え、だって体感2か月半だよ?いくら実際の半年間より短いっつっても、2か月は2か月じゃん。サバフェスで我慢し続けたアーサーにお持ち帰りされた日、ずっと出てこなかったから、ここのとこ毎日会ってるってことはまだなんだなぁって」


サバフェスのあと一日中抱き潰されたときのことを考えれば、同じくらいの期間が空いた今回、まだ毎日外に出られているということはまだ夜を過ごしていないのだろう、という予測だ。悔しいが大正解である。


「…俺明日生きてるかな……」

「え、無理じゃない?まぁガンバ〜」


すげなく返すと、立香は唯斗を部屋から閉め出した。呼び出しておいてこれか、と思えば、ご丁寧にロックと霊体化避けの術式まで起動する。これはコヤンスカヤの一件を経て導入されたものだ。

ただ、夜の睡眠時には見張りとして不寝番があてがわれるルールになっているため、この術式は起きているときしか使わない決まりだ。
唯斗も、基本的にはアーサーが不寝番をやってくれているが、たまに他のサーヴァントがあてがわれることもある。

唯斗は仕方なく、そのまま自室に帰ることにした。次にこの廊下の景色を見られるのは二日後になるかもしれない、と覚悟しながら。


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