節目と自覚−6


立香の部屋から自室に戻ると、アーサーは椅子に座ったまま、読んでいた本から顔を上げる。


「おや、もう戻ってきたのかい?」

「あぁ。まぁ、今日はもう大丈夫そうだ」


すでに鎧を消してリラックスモードのアーサーに、唯斗は不自然にならないよう視線を外して壁際に向かう。
ベッド横の壁に据え付けられたテーブルに通信機を外して置くと、アーサーも本をテーブルに置いた。紫式部が再び地下図書館を開設したため、また本がいつでも読める状態だ。


「マスター、明日の予定は?」

「え、と、明日は休みだ」


声が裏返らなくて良かった。
唯斗はテーブルに置かれていたタブレットを引き出しにしまおうと、二段目を開けるが、そこにアーサーが立ち上がってやってきて、唯斗を後ろから抱き締める。
腕が唯斗の前に回り、腹あたりを緩く抱き締められ、耳元にアーサーが顔を寄せる。


「…唯斗、」

「っ、」


名前を呼んで切り替えたその声音は、ひどく甘やかで濡れていた。その意味が分からない唯斗ではない。
唯斗はいったんタブレットを引き出しにしまってから、同じく、礼装の下からペンダントを引っ張り出してその横に片付けた。
アーラシュたちにもらったこのペンダントは、唯斗の身を守るものであるため、アーサーはそこまで強い拒否を示すことこそないものの、夜の時間を過ごすときにこれをつけていると僅かに眉を寄せる。

そのため、唯斗は先にペンダントを外したし、これが唯斗の気遣い以上の意味を持つことを、アーサーも理解している。
ぐっと腕に力が籠められ、そのまま、礼装のシャツが腰のベルトから引き抜かれた。

唯斗はそっと、背後のアーサーを見上げる。


「…、アーサー」


一言名前を呼べば、すぐにアーサーは唯斗の唇に自らのそれを重ねた。目を閉じて受け入れた唯斗は、唇を割って入ってくる熱い舌に、ぞくりと背筋が震えるのを感じる。
同時に、シャツの裾から差し込まれたアーサーの手が肌を這い上がり、胸元まで達して乳首を爪の先でひっかかれたことで、カッと体温が上がったように感じる。

立香の言うとおりご無沙汰だったわけだが、それは唯斗にとっても同じこと。体感にして2ヶ月以上に及ぶ空白を置いてから、こうして触れられている。
その刺激があまりに鮮烈に感じられて、咥内をまさぐる舌も、肌を撫でる指も、すべてが強い快感をもたらした。
思わず縋るようにアーサーの二の腕あたりを緩く掴むと、アーサーは唇を離す。


「かわいいね。ベッドに行こうか」

「……歩けない」


微笑んだアーサーに、唯斗はそんなことを言ってみた。当然歩けないわけがない。しかしアーサーは気にせず、唯斗を難なく抱きかかえ、ベッドに向かった。
いったんシーツの上に座らせられると、そのままゆっくりと押し倒され、アーサー越しに天井が見える。

アーサーは唯斗に覆い被さるようにしながら唯斗の耳元に口を寄せ、そして軽く息を吹きかけた。吐息が耳梁をなぞり、唯斗は「んっ、」と小さく声を漏らす。
続いてアーサーは舌で耳の内側をねっとりと舐め上げた。生暖かく濡れる感触と水音に、今度こそはっきりと快感が駆け上がる。


「んぁっ、!」

「かわいい」


先ほどからそれしか言っていないが、アーサーは耳から離れると、シャツのベルトとボタンを外しながら、首筋、鎖骨、胸板と順にキスを落としていく。
そして、胸元を円を描くように舌先でなぞった。中心には一切触れない。もどかしさと、焦らされているぞわりとした感覚に体が震える。


「っ、アー、サー…!」


堪らず名前を呼ぶと、まるで泣きそうな声になってしまい、アーサーは小さく笑った。その呼吸にすら震えると、突然、思い切り胸板の中心を口に含まれ吸い上げられた。


「ぁッ!ひっ、んぅっ、!」

「ふふ、本当にこれだけでイけてしまいそうだ」


びくりとした唯斗にアーサーは微笑みつつ、さらに礼装のボタンを外して、前をすべて開いた。上半身の前側が外気に触れるのと同時に、アーサーが唯斗の左肩をそっと撫でる。
何かと思ったが、そこには大きく傷跡が残っていることを思い出す。

カルデア襲撃に際して、アナスタシアの氷撃で貫かれた場所だ。普段と違い、しっかり治癒を施すことができない緊急事態だったため、跡が残ってしまったのだ。
多くの傷は、キャスター陣のおかげで跡になっていないが、この左肩の傷のほか、第四特異点でニコラ・テスラの攻撃に当たった跡と、第六特異点でガウェインに焼かれた火傷跡が、それぞれ右肩と右腕に一部だけ残っている。

アーサーは左肩と右腕それぞれを撫でて、痛ましそうにした。


116/359
prev next
back
表紙へ戻る