水着剣豪七色勝負−1
シオンたちが慌ただしく整備していたシステムがようやく完成し、ノウム・カルデアはついにレイシフトが可能になった。
もともとトリスメギストスIIがあるため、あとはコフィンや計測装置など周辺機材を整えるだけだったが、ここがむしろ大変だったらしい。
7月後半に差し掛かったところでレイシフトが可能になり、物資補給のためのレイシフトという人理修復を彷彿とさせる取り組みが行えるようになった。
さらに、ちょうど同じタイミングで、19世紀末のロンドンに特異点が発生し、立香がレイシフト。記憶が混濁し通信も途絶するなど、あまり幸先の良い結果にはならなかったそうだが、なんとか持ち前の運命力で特異点を修復して帰還した。
そこで得られた経験をもとに、何度かレイシフトも試行して、ようやく7月末には安全なレイシフトが保証できるようになった。
そうして8月になった途端、まるで思い出したかのように、カルデアに夏がやってきた。
「…で?いきなり水着北斎がやってきて、ジークフリートたちにはなぜか霊基に変調があるから、先にラスベガスの特異点に行って来いって?」
「端的に言うとそうなるね」
にっこりと笑ったダ・ヴィンチに、唯斗は大きなため息をついた。
去年もこんな感じでいきなりハワイに飛ばされたが、今回はラスベガスだそうだ。
そばで聞いていたホームズも穏やかに微笑む。
「いいじゃないかミスター雨宮。バカンスはどんなときでもたっぷり取得するべきだ」
「いやバカンスて…特異点探索だろ、一応」
「一応ね!とはいえ、まぁ、危険度は低いというか…ぶっちゃけ物資補給と修復の2つさえクリアしてくれれば、現地で遊んできてくれて構わないよ?」
「まったく!カルデアというのはこうも浮かれていたのかね!」
そこにごもっともなことを言ってきたのはゴルドルフだ。そういえば、今年はゴルドルフがいるのだった。
「あぁ…そういや、新所長は初めてのトンチキ特異点か」
「なんだトンチキ特異点というのは!?」
「分からないからトンチキなんだろ」
「ぐぬ…正論ようなただのアホのような…」
思えば、去年1年間の唯斗がトンチキ特異点耐性のない状態だったな、と懐かしくなる。すっかり慣れてしまったものだ。
唯斗はとりあえず、オーダーが出たからには行くしかないと腹をくくる。
「まぁいいや、とりあえずアーサーと先行する。立香たちは後から来るんだな」
「そういう手筈だよ。というか、サーヴァントたちもラスベガスに特異点ができたというんで浮かれながら勝手に行ってしまったよ」
「…あっそ」
「勝手にレイシフトとはどういうことだ!国連の許可の必要な重大なインシデントであってだね!」
ゴルドルフはいまだにそう喚いているが、特異点の様子を見ればそんなことが些末なものだと気づくだろう。
唯斗はアーサーを呼び出してから、管制室の最下層、コフィンのある場所へと向かう。かつてのカルデアではカルデアスが鎮座していた場所だ。今は空虚な空間となっており、むき出しの岩壁にはいくつかの扉がある。あれは彷徨海の真の入り口だそうで、あの先には時空を離れた神代の研究家たちがいる。
「今年のバカンスはラスベガスなんだね」
「いやだから一応特異点探索だからな」
アーサーですらこんな調子だ。とはいえ、アーサーもきちんと任務はこなしたうえで楽しもうという魂胆だろう。サバフェスのときのようなことにならないといいが。
コフィンに入り、目を閉じる。いまだに久しぶりに感じてしまうのは、あまりに場所が変わったからか。
そうして五感がなくなる感覚とともに重力を感じなくなり、直後、一気にそれらが戻ってきた。