水着剣豪七色勝負−2
すべての感覚が正常に戻ってきたとき、最初に感じたのは刺すような暑さだった。
空気が暑いというより、太陽の日差しが厳しいのだ。そしてひどく乾燥しており、第六特異点で感じた砂漠のそれが近しい。
事実、ネバダ州の砂漠に突然現れる大都市がラスベガスだ。その気候は正常である。
しかし、見渡した街並みに、ラスベガスは初めてとはいえ眉根を寄せた。
「体は平気かい?マスター」
「え、あぁ…大丈夫だ。それにしても…なんか、栄え過ぎっていうか…」
ラスベガスの街並みは、本物の市街地よりも多くの高層ビルやマンションが立ち並んでおり、より豪華絢爛だ。もともと豪勢な街だが、それ以上にきらきらと派手な装飾が施されている。
挙句、街中に豊かな水を湛える運河や水路が張り巡らされたものになっており、町中に水の音がしていた。こんな水源は近くに存在しないはずである。
「…一応ちゃんと特異点してんな」
「ほう、やはり本物を知る者には違和感がありますか」
そこに、凛とした声がかけられた。これはアルトリア、それもランサークラスの方だ。獅子王と化さなかったイフのイフ、そんな霊基である。
しかし振り返ると、唯斗は絶句して動きを止める。アーサーもポカンとしていた。
「これでも本物に近く、それでいて本物以上に完璧な街を目指しているのですが」
「………いや、その前に……」
アルトリアはルーラークラスになっており、さらに、際どいバニーガール姿をしていたのだ。
奉仕するタイプの愛らしいものというより、すべてのバニーの支配者たる謎の威圧感を放ち、何よりバニー服から溢れそうになった胸元と、ぴょこんと揺れるウサ耳がすべてを頓珍漢にしていた。
この人はいったい何をしているんだ、と唯斗とアーサーの内心が重なったところに、ベディヴィエールがやってくる。ルルハワでも見た水着姿だ。
「これは唯斗さんに異世界の我が王。カジノ・キャメロットにようこそ」
「カジノ・キャメロット?」
唯斗が聞き返すと、アルトリアが鷹揚に頷く。
「そうです。このラスベガス最大にして最高級のカジノであり、この私が支配人を務める。この街は今、いくつかのカジノがその権勢を競っていて、どのカジノが覇権を握るのか、鎬を削っている、ということです」
「はぁ…」
「というわけです。あなたたちも当然、我がカジノで勝負していきますね」
「…え」
アルトリアの後ろに見えている豪華絢爛な白亜の城がカジノ・キャメロットとやらだろう。カジノ同士の争いと聞いて、これがこの特異点の趣旨か、と理解したところで、アルトリアはそんな提案をしてきた。いや、提案というか強制だ。
さすがにこんな序盤から娯楽に興じるわけにはいかない。後から立香たちが来た時にスムーズに合流しなければならないということもあった。
「や、さすがに…俺たち一応、この特異点の修復のために来てるわけだし」
「ならなおさら。このラスベガスで繰り広げられる水着剣豪七色勝負、これを勝ち抜いた真の水着剣豪がすべてを元に戻す力を持つのです。そのためには我がカジノでも当然、勝負してもらうことになります。避けては通れぬ障害となるでしょう」
「っつっても、順序ってもんが…」
唯斗は至極当然のことを言っていたはずだが、アルトリアはちらりとアーサーを見遣る。唯斗に任せていたアーサーは、視線を向けられ怪訝にする。
「…何か?」
「異世界の私よ、あなたなら当然勝負に乗りますね?まさか異世界の自分を前に逃げ出す腑抜けではないでしょう」
「……ほう」
基本的には煽られても気にしないアーサーだが、意外にもこの世界のアーサー王たちにはその沸点がやや低くなる傾向にある。新宿のときのアルトリア・オルタとの口喧嘩がそれだ。
「本来、神霊でもなければ私自ら対応することはありませんが、異世界の私とあらば特別対応もしましょう。どうです?ここまでされて、おめおめと逃げ出しますか?」
「いいだろう、受けて立つ」
「ちょ、おい」
アーサーは乗り気だ。アルトリアもよく分かっている。最後の希望とばかりにベディヴィエールに目を向けたが、ベディヴィエールは露骨に視線をそらした。どうやら自身の仕えるアーサー王への忠義を尽くしたいらしい。
結局、まんまと二人はカジノ・キャメロットに招き入れられることになったのだった。