水着剣豪七色勝負−9
立香たちが去った後、アルトリアはその場で唯斗をハイヤーに乗せ、ギルガメッシュのところへ出向させた。
どうやらギルガメッシュはここでもビジネスをやっているようで、ホテルギルダレイなる高級ホテルを経営しているらしい。今回、秘書が足りずアルトリアに打診したところ、ちょうど唯斗がいたため差し出すことにしたそうだ。
曰く、「正直男の私をからかいたかっただけだ。後は賢王のもとで自由にするといい」とのことである。
そうして、ようやくバニー執事の姿をやめて元の礼装に戻れた唯斗は、ハイヤーで豪華絢爛なホテルに連れてこられるなり、蘭陵王に出迎えられた。
「お待ちしていました、唯斗さん」
「あれ、蘭陵王か。もう一人の秘書ってやつか?」
「はい。この蘭陵王、今ひとときは社長に従っております。社長室にご案内します」
頂上にジッグラトをかたどった高層ホテルに入ると、蘭陵王に案内されて最上階の社長室へと向かう。その特別エレベーターの中で、唯斗は果たして自分は必要だったかと疑問に思った。
「…ていうか、蘭陵王がいれば百人力だろ。俺いらなくないか?」
「恐れ入ります。確かに業務は私一人で回っていますが、社長のお世話係は別に必要です。いえ、必要だと社長が判断しました」
「なんだそれ」
お世話係など、それこそ不要だろう。依然として理解できないでいると、蘭陵王はまだエレベーターが到着まであることを確かめてから、淡く微笑んだ。仮面越しでも分かる美貌は異聞帯での姿と変わらない。
「…私はカルデアに召喚されたその日に、すべての記録を確認しました。マスターに万全の体制でお仕えするためです。その過程で、第七特異点でのあなたたちのご様子も知りました。このホテルは、部分的にウルクのジッグラトを模しています。だから、というわけではありませんが、ほんの少しだけ、社長…キャスター・ギルガメッシュ殿は、ウルクでのことを思い出したのでしょう」
「あー…まぁ、確かに蘭陵王ってシドゥリさんに似てるとこあるな」
「ウルクの祭司長であった方ですね。社長も似ていると仰っていましたから、それもあってなのでしょう。もちろん、彼にとっては些末な感傷です。けれど、それでも、あなたにも隣にいて欲しいと僅かにでも思ったことに、正直になったのではないでしょうか」
なるほど、と唯斗は合点した。
この建物、そして蘭陵王の性質に、ギルガメッシュはウルクでの日々を思い出した。それは英雄王としての記憶ではなく、第七特異点での記憶だ。
だからこそ、あの日々を過ごした唯斗にも隣にいさせようと、柄でもない世話役など要求したのかもしれない。
「…、ずるいな。そんなん、断れるわけない」
「ふふ、もちろん、特にご心配は不要です。おわかりでしょうが、そんな感傷的な気分でおられるわけでもありません。いつも通り、あなたと彼との距離でいてくだされば。仕事は私が片付けましょう」
「…うん、ありがとう」
さすがの忠義と気遣いだ。ギルガメッシュが北斉の王だったなら、蘭陵王を含めた戦力で北朝どころか南朝も含めて中華を統一していたに違いない。ただ、それを蘭陵王に言うのは違う気がしたため胸に秘めておいた。
そうしてエレベーターが到着すると、開いた扉の先には社長室の扉だけがあった。その扉を躊躇なく蘭陵王は開く。
「え、ノックとかしないのか」
「ノックも声も届かないほど重厚な扉なので、そのまま開けていいと言われています」
「本末転倒じゃねぇか…」
豪華すぎて音も声も通らず、結局そのまま開けているのだという。
そうやって入った広大な社長室、その中心に、上等なデスクに向かうギルガメッシュの姿があった。ルルハワでの霊衣と同じ姿だ。
「む、来たか。喜べ唯斗、貴様を我の第二秘書としてやろう」
「どうも…」
ギルガメッシュはいつも通り偉そうに言ったあと、早速デスクの上の書類やタブレットをガサガサと探し始めた。
「早速だが仕事をくれてやる。ええと、確かあれが…」
「ラウンジのアルコール類についてはすでに手配済みです」
「そうか。ではあれがあったな。いや、あれの方が…」
「噴水のライトアッププログラムであれば対応を終えています。リネン類の調達についても先ほど更新を終えました」
「…うむ、さすがの仕事の速さだ。しかしこれでは唯斗にくれてやる仕事がないではないか」
「それは私の業務外でしたので…」
年寄りのように(それを言うと本気のデコピンを喰らう)探していたギルガメッシュだったが、すべてを察していた蘭陵王によって解決済みであることを告げられ、仕事がないといきなり無職を宣告される。
「…や、秘書業務がないなら立香たちの手伝いしないと……」
「ほう?この我に22億で買われておきながら自由があると?」
「え、俺って買収されたのか…?」