水着剣豪七色勝負−10


どうやら、アルトリアに対して22億を肩代わりしたのはギルガメッシュだったようだ。そしてこの借金持ちという設定はずっとついて回るらしい。


「仕方在るまい、ならば体を使った仕事しかなかろう。カジノ・キャメロットでは一瞬だけウェイターまがいのこともしていたのだろう?ウサ耳なのにパンダ役とは笑わせる。ならば我にも奉仕してもらおう。もちろん、我がプレジデントルームのベッドでな」

「社長、それはコンプライアンス違反です」


唯斗がため息をつく前に、蘭陵王がすかさず告げた。ギルガメッシュは蘭陵王の堅物さを理解しているため、こちらも少し呆れたようにする。


「冗談だ。SDGsがESGしてCSRする時代、社長とてコンプライアンスからは逃れられまい」


それ以前に倫理的に問題があるのだが、とは言わずにおく。蘭陵王はギルガメッシュの調子にため息をぐっと堪えてから、別の仕事を提案した。


「それでは、かねてから検討する必要があった当ホテルのプロモーション企画をご相談されては?私ではそのような経営企画的なことは不向きです。雑務は片付けておきますので」

「…ふむ、この特異点の間だけとするにはもったいない優秀さよな。よかろう、ベッドは後でだ。蘭陵王の言うとおり、このホテルのプロモーション方法を検討せよ」

「えぇ…」


蘭陵王の落としどころは悪くないものだが、唯斗とてそんなプロモーション企画などやったことあるわけもない。しかし蘭陵王はすでに自分のタスクに戻ってしまい、少し離れた位置の自分のデスクで仕事をし始めてしまった。

ギルガメッシュにはホテルの現在のプロモーション内容のほか、ホテル自体の概要、施設情報、ロケーション、客層など必要な情報がまとめられたタブレットを渡された。
ギルガメッシュのデスクの右側に関連資料も置かれたため、唯斗はギルガメッシュの右側に立ってタブレットと資料を確認することにした。
さすがにいつまでも正面に立つには圧が強すぎる。

唯斗が資料を見ている間、ギルガメッシュは自分の仕事をPCに向かって取り組む。

ざっと目を通したところで、唯斗はとりあえず意見を述べることにした。
タブレットにホテルの特徴を映しながらギルガメッシュに話しかける。


「なぁ、このホテルの売れるところって、ここに書いてあるくらいか?」

「まずはそう捉えて構わん」

「じゃあ、今のままだとあんまプロモーションはしても…って感じだな。このホテルである必要がないことばかりだ」

「ほう?」


ギルガメッシュは手を止めて、その紅の瞳でこちらを見上げる。切れ長の目は力が強いが、もう慣れている。


「ラスベガス滞在の目的はカジノだ。でも、カジノはホテルを併設している。他には、噴水ショーが目玉のホテルがあったり、アクアリウムがあったり…とにかく、目玉がある。でもこのホテルは、単にラグジュアリーなだけだ。でもラスベガスにおいてラグジュアリーは基本装備、そこを誇っても、これじゃ単に空室を求めてくる客しか集まらない」


データからは客層がかなりばらけていることが見えていた。つまり、何かに惹き付けられたのではなく、単に空室だから予約した客が多いということだ。


「まずはセグメントがはっきりしてないってのが最大なんだろうけど…もしも広くいろんな客層から集めるなら、やっぱイベント型の目玉があった方が良さそうだな」

「イベント型の目玉とな?」

「ライブとか、ショーとか。音楽系はあんまり他のホテルにもないっぽいから、週末にライブを開催するとかがいいんじゃないか?もちろん、ヘドバンするようなヤツじゃなく、ジャズとかクラシックの。あるいはオプショナルツアーとして、ホテル発着のツアーを組んで、宿泊も移動もすべて込み込みのプランを作るとか…とにかく、『このホテルを目的にする』ってことと、『このホテルでなければならない理由』が必要だ」


一通り提案したところで、ギルガメッシュは少し驚いたようにした後、楽しげにニヤリとする。


「…ふっ、よかろう。採用だ。蘭陵王、ちょうど良さそうなサーヴァントをリストアップしろ。ハイヤー会社にも枠を増加させて周辺ホテルにツアーに組み込むことを交渉する」

「承知しました」


ギルガメッシュは特に反論せずそのまま唯斗の案を受け入れた。
蘭陵王が言っていたことを思い出し、そして、第七特異点でのことも思い出した。


「…ふは、なんか、ギルスの遊水池提案したときのこと思い出すな。まぁ、あんときは持ってたの粘土板だったけど」


今持っているのはタブレットだ。文字も楔形文字ではない。
ここは玉座ではないし、気候は少し似ているとはいえメソポタミアではない。
だが、確かに同じような気がした。


「…ジッグラトの兵士も、神官も、シドゥリさんも……ここに居なくても、ここに在るんだな、って思えた」

「……そうか」


ただ一言だけだったが、ギルガメッシュはそう返してくれた。共感こそしなかったが、否定しなかった。


「アーサーは騎士王で恋人だし、オジマンディアスも王だけど…俺が仕えたことがあるのは、ギルガメッシュ王だけだ」

「当然であるな、我の小間使い1号よ。いつでも寵愛をくれてやるぞ?」

「もう十分だよ」


唯斗の返答に、ギルガメッシュはふっと小さく笑ってから、「生意気を言いおって」と存外優しい声音で言った。


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