回顧−1
矢継ぎ早に事態が展開し、何も分からないままカルデアが壊滅させられてから1日が経過した。
現在、生き残ったカルデアスタッフ8名と新所長ゴルドルフ、ホームズ、ライダーのダ・ヴィンチ、立香、マシュ、唯斗、アーサーの計15名は、シャドウ・ボーダーに乗って虚数世界を潜航している。
虚数空間には時間という概念が存在しないため、実数空間との経年誤差が発生する。その差はタイミングによってまちまちであり、実数空間と虚数空間の両方を観測するペーパームーンによって、そのタイミングを窺いながら、この空間を漂うことになる。
シャドウ・ボーダーの内部は空間魔術によって拡張されており、2倍の広さになっている。そのため、操縦席のあるデッキのほか、電算室、治療室、工房、空調制御室、倉庫、武器庫という機能面のほか、居住室として船長室を含め4部屋と、魔術的な防御策が内側に対して張られた隔離室が存在する。
スタッフたちは4人1組となって2部屋を使用しており、ゴルドルフは船長室で個室生活を謳歌するそうだ。そして、マスター二人は二人部屋としてベッド2つを配置した部屋で生活し、マシュは治療室、ダ・ヴィンチは電算室、ホームズは工房で寝泊まりする。
立香と唯斗の二人で寝泊まりする部屋には、通常はアーサーもいることが多かったが、アーサーは気を利かせて通路にいることも多い。余っていたシーツを使って部屋の真ん中にカーテンを引いて擬似的に2つに部屋を分けてはいるものの、さすがにこの状況で唯斗もアーサーといちゃつこうとは思わない。
とりあえず各々がシャドウ・ボーダーの内部を把握したところで、立香はマシュの調整に付き添うため治療室に向かい、自室には唯斗とアーサーの二人になった。
いったん危機は脱した。しかし、失ったもの、救えなかったものが、あまりに多すぎた。
ベッドの縁に座った唯斗の左側にアーサーも座る。カルデアの自室でもよくこうして並んで座ったが、シャドウ・ボーダーの鉄板が剥き出しになったこの部屋は、ひどく落ち着かなかった。
「…マスター、左肩はどうだい?先ほど、一瞬だけ治療室に行っていただろう」
「あぁ…うん、自分で応急処置もしてたしな。すぐ治った。替えの礼装がないから、インナーで過ごすしかないけど」
黒い半袖のインナーとスウェット生地のズボンという簡単な格好で過ごしている。食料の備蓄が2週間分であるため、どうやっても最長でそれくらいの滞在であるなら、この格好でも問題ない。
アーサーはそっと、怪我のあった肩を撫でる。
「…すまなかった、到着が遅れてしまって。もっと早く君と合流できていれば、怪我を負わせることも…東館にいたスタッフたちの最期を君が目にすることもなかった」
「ただの仮定の話だろ。俺だって、彼らのその瞬間には間に合ってない。俺は、彼らを助けることはできなかった。どう足掻いても。ただ…」
「…、」
「……ただ、なんで、こんな終わり方…あの人たちが、なんで、こんな目に…って思ったら…」
声が震えるのを聞いて、そっとアーサーは唯斗の肩を抱き寄せた。左側に凭れると、アーサーはそっと唯斗の頭を撫でる。
実に1年間、自分たちだけが生き残った最後の人類であるという重圧の中で孤独に戦い続けた者たちだった。現地で戦うマスターたちを支えるために、寝る間も惜しんでサポートをしてくれた。
人理焼却をやっとの思いで破却して、その残党狩りも完了して、ようやく彼らのこれまでのすべての苦労と苦痛が報われるはずだった。
こんな終わり方をするべき人たちでは、なかったはずなのだ。
「…そうだね。この事態を引き起こした者たちには、報いを受けてもらわねばならない」
アーサーも、こうして唯斗に寄り添いつつ、同じ感情を共有しているらしい。少し声を低くして言った。
この事態を引き起こした者、クリプターと名乗る人物だそうだが、十中八九、Aチームのことだろう。現時点ではクリプターなる人間はキリシュタリアしか判明していないが、コフィンにAチームの全員がいなかったということであれば、状況からそう類推するのが自然だ。
「…Aチームの奴らが、なんでこんなこと……」
「そういえば、マスターはAチームのマスター候補たちを知っているんだったね。どういう者たちだったんだい?」
コヤンスカヤに聞かれたときには答えなかった質問だ。今では、敵の情報を共有するという文脈になってしまう。
ならば、アーサーにAチームのことを話すのも必要なことだろう。
過去の、まだ「人間」ではなかった唯斗が時間を共にしたAチームの者たちとの3ヶ月について、唯斗は話すことにした。