回顧−2


2015年4月。

高校入学の直後、アニムスフィアから呼び出された唯斗は、4月末には南極の天文台に到着した。
そこから3ヶ月の訓練を経てから、カルデアスの異常を調査するためのレイシフトに臨むことになっていた。実際には当日になって予備員に配置転換されることになるのだが、それまでは一応、正規マスター候補だったのだ。

若くして亡き父に代わり所長となったオルガマリー、その補佐として技術支援を行うレフ教授、英霊召喚システムフェイトの実験召喚英霊2号であるダ・ヴィンチ、そうしたカルデアの中心人物たちに加えて、医療セクションのトップだったロマニ・アーキマン。
これらを筆頭に、数百名の人員が生活する巨大な施設での生活が始まったが、唯斗にとっては極めて面倒な場所に来てしまった、という感情以外は持ち合わせていなかった。


「…うん、魔術回路がいきなり酷使されて驚いたんだろう。すぐに痛みは引くはずだよ」

「そうか」


医務室にて、唯斗は正面に座るロマニの診断を聞いて、それだけ返した。
それまで唯斗は、そもそも魔術師ではなかったことから、魔術回路のメンテナンスと実用レベルの簡単な魔術以外では魔術回路を使ってこなかったため、急に戦闘訓練が始まったことで回路が痛みを発していた。だが、ロマニ曰く筋肉痛のようなものであるようだったため、唯斗は気にせずにおくことにした。

一方、ロマニはそんな唯斗を見てため息をつく。


「それよりも、かなり不健康な生活をしていたね?魔術回路よりもそちらの方が問題だ。幸い、カルデアの食堂は充実している。きちんとバランスよく食べて運動していれば、健康体になるはずだ。成長期なんだから、バランスの良い食事が肝要だよ」

「もう必要な工程は終わったか?なら退室する」

「あ、ちょっと」


ロマニは呼び止めようとしたが、すでに必要な健診は終わっている。唯斗は気にとめることなく、医務室を後にした。

廊下を歩いていると、すれ違った時計塔の魔術師たちのひそひそ話が聞こえてくる。


「うわ、出たよ」

「あれがグロスヴァレの面汚し?」

「なんたってアニムスフィアはあんなのまで、貴族主義の家だろ」


父は、唯斗を産んだことで亡くなった母を甦らせようと英霊召喚の術式を転用し、聖杯戦争でもないにも関わらず召喚を試みて、さらにはそれによって命を落としたことが警察沙汰となったことで報道されてしまった。
日本は魔術耐性が米国同様に高い地域であるため、魔術協会の力があまり強くなく、協会の根回しが遅れてしまったのだ。それによって警察は死因特定や現場検証のために自宅に入ってしまい、報道では「オカルト趣味の末に息子とともに無理心中か」というセンセーショナルなニュースとなってしまった。

神秘の秘匿を第一とする魔術協会では、アニムスフィアの施設から術式を盗み出したこと、勝手に召喚を試みたこと、さらには世間に魔術の一端を明かしてしまったことなど様々な禁則破りを極めて問題視。
生き残った唯斗を遙々ロンドンまで呼び出して尋問したあと、より近くのフランス・ブルターニュ地方のグロスヴァレの分家で強制的に住まわせた。
唯斗は生まれて約10年近くをその家で過ごしており、そこで伯母のきつい当たりを受けながら生活していたが、父に連れられた日本で死者蘇生術式の触媒として生け贄にされかけたあと、さらにもう一度フランスの伯母のもとで暮らすことになってしまったのである。

1年ほどフランスで生活したあと、フランスを嫌悪して協会の許しを得て日本に帰国した唯斗は、これから協会の監視はあれど自由な一人暮らしができると思っていた。
それも長続きせず、こんな場所に呼び出されてしまったわけだ。

魔術師になりたいわけでもないのに魔術と戦闘の訓練をさせられ、時計塔の魔術師たちから陰口を叩かれ、一人でいたいのに集団生活を余儀なくされ、やる気がないのに持って生まれた魔術回路の優秀さだけで僻まれる。
まるでこの世の地獄だった。


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