水着剣豪七色勝負−12
どんな挨拶だ、と驚くのは唯斗だけで、オジマンディアスは特に気にせず告げる。
「余は新王国第19王朝がファラオ、オジマンディアス。これは恩情である。対応を改めよ」
「ッ!これは大変申し訳ありませんでした!!全スタッフに告ぐ、ファラオ・オジマンディアス様のお越しである、繰り返す、光輝の神王が降臨なされた!!」
通信で従業員が焦って呼びかけた瞬間、面白いほどピラミッド内部がざわついたのが分かった。ドタドタと慌てて従業員が並び、入り口までの道にずらりと列を成す。
そこを、急いで走ってくる二人の女性。片方は最後のファラオであるクレオパトラ、そしてもう片方は、メジェド神の神性が暴走しているというニトクリスらしきメジェド神だった。
「これはファラオ・オジマンディアス様!ご機嫌麗しゅう、本日はお越しくださり誠にありがとうございます。副支配人のクレオパトラにございます。先ほどは大変な失礼をお許しください。このクレオパトラ、どのような神罰をも喜んで受け入れる所存です」
「よい。この砂漠だ、目の眩むこともあろう。神王なれば許す」
「ありがたきお言葉にございます。それで、その、こちらは…」
「把握している。ニトクリスめだろう。あぁよい、無理に喋らずとも」
ニトクリスは片言でいろいろ賛辞を述べるが、確かにこの神性の暴走ではきつそうだ。
すると、クレオパトラは唯斗を見て、少しだけ迷ったようにする。オジマンディアスに肩を抱かれている様子からも、非礼のないように、と考えているのかもしれない。
「あー…クレオパトラ、俺のことはいつも通り、もう一人のマスターとして気兼ねなく接してくれて構わない。俺とオジマンディアスとの契約は主従じゃない、あなたが敬意を払うファラオたちと同列に扱う必要なんてない。あなたが敬いたいものを大事にしてくれ」
「…とのことだ、クレオパトラよ。こやつは余が伴う者であり余の所有物、つい今し方22億ぽっちで買い取ったものでもある。狼藉さえなければ、どのような対応も余への不敬とはならん」
オジマンディアスも唯斗の意図を汲んでくれたようで、クレオパトラにそう告げた。クレオパトラは、唯斗に呆れたようにしつつも小さく微笑む。
「…ええ。理解しました。あなたを王后のように扱うことはしません。ですが、オジマンディアス様のマスターとしてこれまで戦ってきたこと、それにオジマンディアス様がお力を添えられたこと、それらは紛れもない事実。そのゆえんたるあなたの性質も理解しています。ならば、あなたへの敬意ではなく妾自身の品位のために、礼を保って接しましょう。妾は古代エジプト最後のファラオ。勇敢なる者を無碍に扱う王ではありません」
「…そうか。分かった、ありがとう」
「あなたに礼を言われる筋合いはありません。これは妾の問題です。理解したなら、冷たいウェルカムドリンクで喉を潤しVIP待遇に興ずるがいいでしょう」
まるでひどいことを言うかのように好待遇を約束されてしまった。クレオパトラらしさに、オジマンディアスも苦笑気味だ。
そうしてクレオパトラとニトクリスにVIPルームへと連れられると、オジマンディアスはVIPルームに置かれたいくつかのゲームを順繰りに遊び始めた。
いや、遊ぶというより試す、と言った方が正しい。
「見ているがいい唯斗よ。余の黄金律を!」
そう言ってオジマンディアスは、スロット、ルーレット、ブラックジャック、バカラとプレイし、すべての結果を隣で見ていた唯斗に見せつけた。
なんと、すべて最高倍率での完全勝利だ。これが黄金律。ニトクリスとクレオパトラは、本来なら青ざめる展開にも関わらず、オジマンディアスをひたすら褒め称えている。
「さ、さすが…黄金律って言葉そのものの生みの親たる古代エジプト最大の王…」
「フハハ!当然のことを口にするでない!だがその素直さに免じて、この30億はくれてやろう」
「………へっ、」
オジマンディアスがそう言うなり、速やかにメジェドスタッフが30億分のチップを現金化した。現金といっても小切手だが、額面にまたもくらりとしそうになる。
「…や、つか、こんな額…」
「何を言う。このカジノ・ファラオはファラオだけに許された高貴なカジノ。まぁ、もちろんファラオだけでは250名前後と少ないからな、ファラオに準ずる高貴な者も入れるよう、デポジット10億を設けている」
「…デポジットの3倍程度でしかないのか……」
どうやらここはとんでもないカジノだったようだ。
それならこの額は端金ということだ。唯斗は断る方が不敬ということもあって、小切手をおとなしく受け取る。
これで、22億の債務者から8億の債権者になったようなものだ。
だが、別にカジノで遊びたい、ということもないため、もらったはいいがどうすれば分からないまま、唯斗はオジマンディアスと別れてカジノ・ファラオを後にした。