水着剣豪七色勝負−14


すでに日も暮れていたため、唯斗はアキレウスに連れられて最高級レストランで食事をとり、お互い「牛丼のがうまい」という結論で一致して、せっかくならこのままバーにでも行こうということになった。

モリアーティがやっているというバーにアキレウスと二人入ると、そこには意外な姿があった。


「あれ、立香。それにジャンヌ・オルタとアタランテ・オルタまで」


カウンター席には立香とマシュ、ジャンヌ・オルタ、アタランテ・オルタが並んで座っており、近くにはチンピラが一人倒れていた。巻き上げたのだろう彼の財布をアタランテは見分しており、カウンターには大量のグラスが空いている。

マシュは酔っているが、モリアーティと立香がアルコールを飲ませることはないだろうから、恐らくただの場酔いだろう。
ジャンヌ・オルタとアタランテはギャンブルを呪っており、負けたやけ酒かと察する。立香たちはそれに巻き込まれてしまったようだ。これはあまりよくない場所に出くわした。


「あー、いいとこに来たわね。ちょっと韋駄天、そのお綺麗な顔のマスター君にキスの一つでもしてみせなさいよ。ネタにするから」

「なに刑部姫みたいなこと言ってんだ」


ラスベガスでも執筆しているらしいジャンヌ・オルタにとんでもないむちゃぶりをされてしまった。


「俺はいつでもいいぜ」

「お前も乗るな」


とりあえず酒を飲みに来ているため、唯斗とアキレウスも席に着こうとしたが、カウンター席は埋まっているため、ソファー席に並んで座る。
対面の席は寝てしまったマシュを横にしているため、二人は横並びになっている形だ。
カウンター席からもほど近いため、モリアーティは勝手知ったる仲ということもあり、カウンターの内側から声をかけてくる。


「何にするかね?」

「俺は任せる。マスターは?」

「あー…じゃあ、パパダイキリで。本物ほどラム酒多くなくていいからライム多めで」

「ほう、了解したよ。ではアキレウスにはモヒートにしておこう」


唯斗はアメリカであることや暑い場所であることもあって、ヘミングウェイの愛したフローズンダイキリ、通称パパダイキリやヘミングウェイスペシャルと呼ばれるカクテルを頼んだ。

ヘミングウェイはアメリカの文豪で、スペイン内戦に従軍して「誰がために鐘は鳴る」などの名作を執筆したことで知られる。そして相当な酒豪としても名をはせており、好んで飲んでいたダイキリのオーダーが、そのまま固有のカクテルとなった。
ヘミングウェイをパパと呼ぶアメリカの慣習に則って、パパダイキリと呼ぶのだ。

ダイキリは普通、ラム酒とライムないしレモン系のジュース、シロップを混ぜてつくる。しかしヘミングウェイは、ラム酒をダブルにして、ライムジュースとグレープフルーツジュース、さらにサクランボのリキュールであるマラスキーノまで加えて大量の氷をシェイクするというこだわりをもっていた。
一説にはこれを一日12杯飲んでさらに水筒に入れていたという。

人生の多くをキューバで過ごしたため、その常夏の気候から、こうした強いダイキリやモヒート、マティーニなどのハーブ・柑橘のスッキリとしたものを好んで飲むことが多かったそうだ。


「おいおいマスター、ラム酒ダブルにリキュール入れてクラッシュドアイスって…大丈夫かそんな飲んで」

「たまにはいいかなって。なんかアキレウスの勝ちっぷり見てたら気分良くなった」

「…ま、いいけどよ」


説明を聞いたアキレウスは少しだけ心配そうにしたが、つまみに出された揚げパスタに気を取られて話をそこで終えた。
たまにジャンヌ・オルタたちの愚痴の流れ弾を食らいつつ、カクテルを待っていると、モリアーティはカウンターから出て二人の前のテーブルにカクテルを持ってきた。
アキレウスはモヒート、唯斗はパパダイキリだ。


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