創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラI−1


夏も終わった8月末、1週間後にインド異聞帯への突入を控えたタイミングで特異点が発生した。
気が付くと施設のほとんどのスタッフとサーヴァントが消えており無人状態と化すという異例の事態になっており、慌ててシオンが立香たちを江戸時代の日本へとレイシフトさせた。

唯斗とアーサーも向かうつもりだったが、トリスメギストスIIは二人のレイシフトが不可能になっていることを告げ、仕方なく立香たちに委ねた形だ。
シオンの見立てでは、特異点を生み出した者によるカルデアへの攻撃であり、唯斗たちは邪魔だと判断された可能性があるとのことだった。

そうして無事に立香は特異点を解決して戻ってきて、ゴルドルフをはじめスタッフとサーヴァントも帰還したが、もたらされた事実は驚くべきものだった。

特異点を生み出した者の正体はカーマ。正確には、ヒンドゥー教における愛の神カーマデーヴァであり、仏教では修行者の悟りを邪魔するマーラという悪魔として知られる。
もともとヒンドゥー教は仏教の二番煎じのようにしてインドで発生した宗教であり、同時に生活習慣や社会構造を宗教として整理したものでもあるため、仏教と連動する。

ヒンドゥー教で神カーマ、仏教で悪魔マーラである一方、カーマはそこまで悪性のものとして描かれない。それは、愛というものに対して仏教があまりに潔癖であったためともされる。

カーマは、シヴァが神妃パールヴァティに興味を示さず、神々の敵アスラの悪魔ターラカに対抗する手段である軍神スカンダが生まれないことを危惧した神々に派遣された神である。インド=ヨーロッパ語族の神話体系として欧州に伝達すると、ギリシア神話のエロースとなる。しかしカーマはエロースと違い、シヴァを愛で邪魔しようとして炎で焼かれてしまう。
このシヴァの炎は概念的に宇宙を焼却するものであり、それで焼かれたということは、逆説的にカーマを宇宙に匹敵する存在として世界に記録させた。

結果、カーマはマーラと同一でありながら宇宙と接続してしまい、仏教における宇宙が無限の可能性そのものであったこともあり、そのエネルギーは無限に匹敵するものとなろうとしていた。

そして何らかの理由でパールヴァティがサーヴァントになった際、その依り代から切り離された悪性を使用することでカーマは霊基を得て、さらに何らかの理由でマーラとしての性質が強くなってしまったことで、仏教の悪魔として江戸時代に特異点を出現させたのである。

カーマ/マーラが特異点を形成した理由は、カルデアのマスター・立香を屈服させること、そしてそれによって、自らの優位性を示すことだった。
その優位性というのが、なんと、かつてカルデアの北海油田基地セラフィックスで発生し、虚数事象としてなかったことにされた特異点SE.RA.PHの黒幕だった、殺生院キアラに対するものである。

つまりカーマは、ビーストIII/Lだったのだ。

ビーストIIIとして、LとRどちらがより強いか示すことを求めたマーラは、カーマとしての霊基を侵食してビースト幼体と化し、特異点を形成してカルデアの人々を吸収。さらに立香をその愛によって屈服させることで、かつてキアラを倒したマスターを倒すという事実でもって頂点に君臨し、その宇宙のエネルギーを用いて全人類を愛で支配しようと画策していた。
自己愛の化身であったキアラに対して、こちらは他者愛の化身であったということである。

唯斗とアーサーのレイシフトが弾かれてしまったのも、恐らくビーストとしてエクスカリバーを拒絶したからなのだろう。

結局、ちゃっかりサーヴァントになっていたキアラと、現地で合流したパールヴァティの助けもあって、立香はカーマを倒すことに成功。
特異点を修復し、さらにキアラがカーマを弄ってアサシン霊基として確立させ、カルデアのサーヴァントとなったのだった。

なんとかこの事態は丸く収まったのだが、一件落着後、パールヴァティは気になることを言っていた。


そもそもシヴァをはじめとするインド神話の神々によって抑えられていたはずの悪性マーラが、いったいなぜ表出することができたのか。
もしかするとインドの神々に何かあった可能性があり、それは、これから向かうインド異聞帯に関係しているかもしれない。

そんな不穏な予想とともに、インド異聞帯への突入の日が近づいていた。


139/359
prev next
back
表紙へ戻る