回顧−3


やる気のない唯斗だったが、やると成果を出せてしまう生来の魔術回路の優秀さのせいで、だんだんと時計塔のマスター候補たちからの僻みが大きくなりつつあった。
陰口は次第に表面化し、面と向かって暴言を浴びせてくる者たちも増えたし、わざとぶつかったり食堂で水をかけたりするような者も現れた。

それ自体はどうでもよかったが、そうはいかないのがオルガマリーだった。

オルガマリーにとっては、貴族主義という一族の思想を隅に置いてでも、成果を上げようとしていた。使えるものは何でも使う、というのは、Aチームを選抜したマリスビリーにも通ずるものがあった。
たとえどれだけ禁忌を犯した家だろうと、唯斗の実力の高さを重視したオルガマリーは、事実上のAチーム枠として唯斗をBチームに配置して、一緒に訓練させることもあった。

もちろん、Aチームと一緒に過ごすことはなく、訓練で共になるだけだ。だが、それでもマスター候補たちからの視線は日増しにきつくなり、それはオルガマリー本人にも向いていた。

このままでは支障が出ると判断したオルガマリーは、ある日、唯斗にとんでもない訓練の提案をした。


「…は?俺1人でAチーム全員と戦えって?」

「ただの模擬訓練です、本当の戦闘ではないわ。つまりは、Aチームにコテンパンにされるところを他のマスター候補たちに見せることで溜飲を下げさせるというわけ」

「…はぁ……」


思わず気の抜けた返事になってしまった。そんな馬鹿げた提案をされると思わなかったからだ。

そもそもやる気もないのにここにいる唯斗が、なぜそんな面倒なことを引き受けると思ったのだろう。ここを追い出されることになっても一向に構わないのだ。


「あなたに拒否権はありません。拒否するなら、魔術協会を動かして、今あなたが生活している日本の雨宮本家を接収するわ。快適な独り身生活、失いたくはないでしょう?」

「……ある意味、やっと時計塔の魔術師っぽいとこ見せたな、あんた」


唯斗を脅す方法としては最も適切だ。そんなえげつない脅し方をするのは、本来のオルガマリーであれば自然なはずなのに、カルデアを立て直してアニムスフィアの権威を維持するという使命感を前に奮闘する彼女は、そんなことすらしないで唯斗のことも対等に扱っていた。

唯斗の言葉にオルガマリーは呆れる。


「褒め言葉として受け取っておきましょう。シミュレーションで訓練を行うから実体の怪我は発生しないわ。痛みのフィードバックもなし。ただし、手を抜いてはだめ。それはすぐに見ているマスター候補たちにバレるし、そうなったらより状況は悪化します。本気で戦いなさい」

「…あのメンツに?手を抜いてるか判断する間もなくボコされるだろ」

「彼らには、魔術が使えない場面を想定した訓練ということで、魔術の使用を禁じます。ハンデがあれば、あなたが叩きのめされるインパクトも強調されるはず」

「……はいはい」


なんにせよ、快適な一人暮らしを人質にされてしまえばやるしかない。

とはいえ相手はそうそうたるメンバーだ。
事実上のアニムスフィアの跡取りともされる時計塔主席のキリシュタリア、魔眼持ちの降霊科オフェリア、時計塔植物科出身のヒナコ、同じく時計塔出身のカドックと、時計塔所属のれっきとした魔術師だけでなく、フリーの魔術師であるという明らかに偽名を使うペペロンチーノ、時計塔から狼男と呼ばれ疎まれるベリル、過去に伝承科を追放された経歴のある謎の人物デイビットといった異色の経歴の者たちまでいた。

これまで訓練を共にした限り、キリシュタリアとオフェリア、カドックは魔術がないなら普通の人間レベルであり、ヒナコに至ってはもともとカルデアの技師だったため戦闘方面はからっきしだ。
一方、ペペロンチーノとベリル、デイビットはあまりになんでもできる上に極めて身体能力も高く、正直同じ人間とは思えないほどだ。

そんな彼らを相手にするのだ、5分と保たないだろうが、それがオルガマリーの要求である以上、唯斗は応じなければならなかった。


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