創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラI−5
どういうことかと思っていると、アーシャのところに父親らしき男性がやってきた。アーシャを抱えて家に走ろうとしている。
「あ、あの!アーシャさんのお父さんとお見受けしますが、どういうことかお話を…」
「俺にもアジャイって名前がある。悪いが間抜けの面倒は一人で精一杯だ」
アジャイというアーシャの父親は、にべもなく帰ろうとする。せめて何が起きているのかだけでも、と言いつのったマシュに、アジャイは怪訝な顔をした。
「お前らは赤ん坊か何かか?カリが初めてってわけでもないだろう。俺たちにできるのは、家に閉じこもって祈るだけだ。カリに食われる不出来で不信心な人間にならないように、神に不要とされないように、な」
そう言ってアジャイはアーシャを連れて広場を離れてしまった。すでに広場には誰もおらず、町はシンと静まりかえっている。
「唯斗、カリって?」
「インド神話における悪魔の名前だけど、具体的な化け物というよりは概念に近いな。自分の身に起こる悪いこと全部をカリの仕業と考えるような、そういう悪いもの全般って感じだ」
紀元前1000年頃から500年頃にかけて、古典インドの哲学はヴェーダという経典によって支えられたため、これをヴェーダ時代という。この頃編み出されたダイスゲームの出目のうち最も悪い目がカリという名前だった。それが転じて悪魔の総称となる。
ヴェーダ時代のこのダイスゲームの出目は、そのままユガというインド哲学における重要な時代区分の名称になっていく。
だが、そこまで話をする前に、突如として広場に巨大な魔獣が現れた。6本足の禍々しいワニのような怪物だ。
恐らくはあれがカリだろう。
カリたちは建物を手当たり次第に破壊し、広場のテントを吹き飛ばしていく。市街地のところどころから悲鳴が聞こえてきた。
ラーマは剣を抜いてカリたちに対峙する。
「我らが知る『そのもの』ではないようだが、所業からして悪魔に連なるものであるのは確か。王として見過ごせん」
「あぁ。マスター、指示を」
カルナも槍を構え、哪吒も足から炎を噴き出して滞空すると槍を構える。
アーサーとマシュも臨戦態勢になり、立香が指示を出す。
「よし、哪吒とカルナはこの辺りの壊れそうな建物にいるカリから倒して!ラーマとマシュは広場でこっちに接近するカリを頼む!」
「承知した!」
「了解」
カルナ、哪吒はすぐに広場を飛び越えて、周辺一帯で脆そうな建物を狙うカリから優先的に駆除し始めた。
ラーマとマシュは広場でこちらに接近する個体と戦う。唯斗もそれぞれに1騎ずつ加勢することを選んだ。
「アーサーはラーマたちと広場内での掃討。エミヤ、来てくれ」
「お呼びかね」
「そこの塔から付近の敵性体を狙撃だ」
「承知した」
アーサーは広場での交戦を、エミヤには高所からの狙撃を指示する。
すぐに、付近は戦闘音に包まれた。
広場中央の噴水の台座を薙ぎ倒してこちらに接近するカリを、アーサーが聖剣を吹き飛ばし、その後ろから来ていたカリはラーマが切り裂く。ラーマの背後に迫るカリはマシュの盾が弾いてからエミヤの剣が矢となって貫いた。
一方、周囲の建物の屋上では、カルナと哪吒がカリを槍で串刺しにしながら通りに投げ飛ばし、それをエミヤが支援している。
しかしそれでもなおカリの数は減らず、むしろ増え続ける一方であるため、徐々に破壊された家から悲鳴が聞こえることが多くなってきた。カリたちは破壊した家から人間を引きずり出すと、頭から食い散らかしていく。
一時召喚にも限りがある、こちらの戦力を維持するのも難しくなってきたあたりで、今度は別の敵性体が現れた。
白い一角獣であり、こちらはカリと敵対しているのか、互いに攻撃し合っている。同時にカルデア側にも攻撃を仕掛けてきており、場は混戦するが、一角獣のおかげで住民の被害は軽減される。
カリと一角獣両方を相手にしながら戦ううちに、ようやく敵性体は放逐に成功し、周囲から反応がなくなった。
全員さすがに息を切らしている。
市街地のところどころから煙が上がる中、戦闘音が止まったことで、徐々に人々が恐る恐る顔を出し始めている。
「お姉ちゃんたち大丈夫!?ってびっくりするほど大丈夫だね!?」
「よかった、アーシャさんも無事でしたか」
そこに、アーシャとアジャイもやってくる。広場に散乱するカリと一角獣の死体を見て、アジャイは表情を険しくした。
一方、アーシャはこちらの無事を見て嬉しそうにしてくれるも、よたよたと歩くヴィハーンを見て悲しげにする。
「私たちは無事だけど、ヴィハーンは怪我をしちゃったの。お家が揺れて、倒れた棚に挟まれて…」
「そうでしたか…」
ヴィハーンは後ろ足を怪我してしまったようで、包帯を巻かれていた。回復術式をかけてもよかったが、すでに広場には人々が出てきていたため、一応やめておく。迷信はそれこそ現代インドでも事件沙汰になる。