創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラI−6
しかし事態は思ったよりも深刻だった。
アジャイを始め、人々の表情が険しかったことから嫌な予感はしていたが、出てきた町長に「悪魔の所業」と断じられてしまったのだ。
どうやら一角獣もカリも神の使いであるらしく、とんでもない蛮行を働いたと見なされてしまったようだ。
人々からも出て行けと言われてしまい、仕方なく、ビーチュというらしい町から出て東の平原を進むことになった。
『まぁ気を取り直して。これから手頃なキャンプ地を探してもらうわけなんだけど』
町から少し離れた場所を歩きつつ、今後のことをダ・ヴィンチと通信していると、ダ・ヴィンチは空中に映したホログラムでニヤリとする。
『それにはやっぱり、君たちの後ろの茂みに隠れている小動物ちゃんに聞いてみるのが早いんじゃないかい?』
「そうですね。ではアーシャさん、そんなところにいないで、出てきてくださいませんか?」
「わ、びっくり!」
どうやら、アーシャはビーチュの町からここまで着いてきていたらしい。まだそこまで距離は離れていないため、今のうちに声をかけておこうということだろう。
立香は微笑んでアーシャに視線を合わせてしゃがむ。
「どうしたの?」
「あの、これ。さっき、助けてもらったんだと思うから、お礼に」
「バナナだ!ありがとう」
アーシャが立香に手渡したのは、全員分のバナナだった。黄色く色づいた一房のバナナをお礼として持ってきてくれたのだという。
意外と面倒見がいいラーマが、バナナを見て「うまそうなバナナだ」と褒める。
「余もかつてはハヌマーンがとってきてくれたバナナを貪り食ったものだ」
「はぬま…?」
「もしや、ハヌマーンを知らんのか?………待て、もしや、まさか」
ラーマの言葉にまたしてもキョトンとするアーシャ。まさか、とラーマは表情を硬くする。
「百歩譲ってそんなことはないと思うが、一応の確認だ。余の名はどうだ?」
「…?」
「…、俺はカルナという。カウラヴァに身を寄せていた戦士だ。聞き覚えは?」
「………?」
なんと、アーシャはラーマもカルナも知らなかった。それはさすがにおかしい。日本で言えば桃太郎も一寸法師も知らないというようなものだ。
マハーバーラタもラーマーヤナも、正史においてインドの誰もが知っているし、それはパキスタンやバングラデシュ、東南アジアの国々においてもそうだ。
そうしてようやく、アーシャによってこの世界の有り様を知ることができた。
まず、このインドには正史のインド哲学と同様に「ユガ」という概念がある。
ユガは4つの時代を経ていく1つのサイクルであり、サティヤ、トレーター、ドヴァーパラ、カリの4つのユガから成る。より古い時代には、サティヤ・ユガはクリタ・ユガとも呼ばれ、この異聞帯ではクリタ・ユガと呼ぶようだ。これら4つのユガを合わせて大ユガといい、これは432万年にもなる。
4つのユガは4:3:2:1の比率となるようになっており、クリタ・ユガは172万8千年、トレーター・ユガは129万6千年、ドヴァーパラ・ユガは86万4千年、そしてカリ・ユガが43万2千年である。
インド哲学はそのスケールの大きさと独特の宇宙観で知られているが、これはまさにそんな思想を端的に示すものだ。
しかし異聞帯では、クリタ・ユガからそれぞれ4日、3日、2日、1日と合計10日になっているらしく、その周期で世界が作り替えられているらしい。
文字通り、カリ・ユガの終わりにはいったん世界が滅びて、祈りを捧げていた命だけが次のサイクルに移行できるというのだ。
さらに、それを行う神はただ一人であり、他に神はいないらしい。インド神話は多神教であるため、そこも大きな違いだ。北欧のことを考えれば、恐らくこれは本物の神だろう。ヴィシュヌ神かシヴァ神か分からないが、ただ一人となった神が世界を僅か10日で滅亡させ創世している。
空想樹、そして人々が「神の空岩」と呼んで自然のものとして受け入れている立方体についても、この神に纏わるものと考えられていた。
そして今日はちょうどドヴァーパラ・ユガの二日目であるため、明日はカリ・ユガだそうだ。この日には大量のカリが現れるという。
大量のカリと戦うというのなら、戦力が必要だ。
そこで、アーシャの情報で、北のヒマラヤに続く山岳地帯にサーヴァントと思われる噂の存在がいるとのことで、一同はアーシャをビーチュの町に送り届けてから、次にその山岳へと向かった。