創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラI−11


辛くも虚数潜航に成功したボーダーは、なんとか世界創世から免れた。
実数空間が安定するまでの間、ペペロンチーノからこの世界について聞き出す。

ある程度予想はついていたが、実際に聞くと、やはり信じがたい気になる。

まずこの世界が剪定事象として分岐したのは、マハーバーラタの時代。マハーバーラタが成立したのは紀元前4世紀頃からの800年間ほどの間だとされているが、あくまでそれは記録として体系化された時代であり、実際にあの大戦争が発生したのがいつかは分かっていない。

とにもかくにも、戦後アルジュナは、恐らくは友人であったクリシュナを通してヴィシュヌ神を取り込み、そこからすべてのインドの神性を統合していったのではないか、というのがペペロンチーノの見立てだ。それは唯斗も同意する。アルジュナが直接的な接点を持っていた神性と言えば、クリシュナか父インドラとなるが、インドラではシヴァやヴィシュヌの統合をもたらすほどの力は得られないだろう。

そうしてインドにおける唯一の神となったアルジュナは、自らの力で世界の滅亡と創世を一定の周期で繰り返し、そのたびに不要なものを切り捨ててきたそうだ。

この異聞帯の担当となったペペロンチーノは、召喚したサーヴァントであるアシュヴァッターマンとともにアルジュナに接近したが、異星の神の使徒であるアルターエゴの1騎がアルジュナを唆し、その世界の輪廻を早め、さらに手駒としてアシュヴァッターマンの契約を奪った。
アルジュナはアシュヴァッターマンの契約からサーヴァントの召喚方法を習得し、他の手駒として哪吒など3騎を召喚した。

それがこれまでの経緯らしい。

そこまで分かったところで実数空間も安定し、ボーダーは浮上する。
ハッチを開けて外に出ると、そこはまったくの別世界のようだった。


「…うわ、なんだこれ」


目の前に広がる嘘のように美しい景色に、思わず漏れたのはそんな声だった。
フォウは喜んで跳ねており、立香とマシュも美しい光景に目を奪われている。

そこはまるで浄土のようだった。咲き乱れる花々、豊かな水辺、緑溢れる山々に済んだ空気。
これがクリタ・ユガの一日目、最も幸福な世界。徳だけが支配する理想郷。

美しい世界のはずなのに、北欧のときのような感動はなく、それを美しいと感じていない自分がいた。美しいと理解しているが、そう感じていないのだ。

とりあえずペペロンチーノに勧められるまま、ビーチュの町に移動する。
そこでは、ペペロンチーノが言っていた通り、人々の様子がまったく違っていた。

唯斗たちの様子を心から案じて迎えてくれる町長、笑顔で行き交う人々、豊かな市場となった広場を囲む建物は美しく飾られている。


「あっ、お兄ちゃんたち!」

「アーシャちゃん!」


すると、アーシャが元気そうに駆けてきた。無事だったようで、アジャイも舌打ちをしながら一緒にいる。アジャイは輪廻前と変わらない様子だった。


「よかった、お兄ちゃんたちも無事にこのユガを迎えられたんだね!」

「アーシャさんも無事なようで良かったです」

「私はちゃーんとお祈りしてたから、怪我も何もないよ!」


アーシャも相変わらず溌剌としていて、そんな様子にどこか救われたような気になった。
アジャイと二人で広場に来ていたようだが、一緒にいた犬の姿が見えない。マシュも気づいたようで、アーシャに尋ねる。


「怪我といえば、あの犬…ヴィハーンさんは大丈夫でしたか?」

「…?ヴィハーンってだぁれ?」


その言葉で、唯斗はすべて理解した。不要なものを切り捨てるということが意味する本当のところを。


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