回顧−4
翌日、戦闘訓練の日となった。
唯斗が敵魔術師役となり、魔術もサーヴァントも使えない状況下で戦闘を継続するという設定での訓練が行われることになる。
Aチームは、魔術師たち7名に、カルデア所属の少女であるマシュ・キリエライトという人物も含めて8名がそろい踏みしている。
対してこちらは唯斗一人。まさに公開処刑だ。
そんな立て付けの訓練が行われると聞いたマスター候補たちは、それぞれの訓練の傍らで、シミュレーターの様子を窺っていた。いつもは集中を切らしたところをオルガマリーに見つかろうものなら叱られるものの、オルガマリーは今回はこれが目的であるため、黙って様子を見守るそうだ。
シミュレータールームでシミュレーション用のコフィンに入り、意識を電子空間に接続する。
そうして、視界は延々と廃墟が続く市街地に切り替わった。
戦闘用礼装を着て、廃墟の町に一人で立つ。ビル街のようで、10階建て前後のビルが大通りに沿って建っているものの、すべてが根元が潰れて傾いたり、道路を塞ぐように倒れたり、隣のビルに凭れていたりと崩壊している。
遠くには中層階に穴が空いた高層ビルも見えている。ひしゃげた街灯や信号もあるが、車など人の使うものは一切配置されていない。ビルの中も、フロアはあるものの什器はなく、ただのコンクリートの模型が置かれたような現実感のなさだった。
『これより模擬戦闘訓練を行います。Aチームは魔術の使用は禁じます。雨宮唯斗の無力化が終了条件です』
通信からオルガマリーの声がする。当然、訓練は別の人物が主に指導しているが、今回はオルガマリー直々に采配している。
離れた座標にAチームが配置されており、唯斗はどうしたものかと考える。
手抜きはオルガマリーに指摘された通りであるため、こちらも相応の戦闘を行う必要があるが、一方でペペロンチーノのような妖怪相手にまともに持ちこたえることも難しい。こちらは魔術を使えるそうだが、せいぜい左手の刻印を使った転移術式と、威力は強いが精度の低いガンド、薄い結界、回復と強化くらいが唯斗の使える魔術だ。
どう考えても勝ち目どころか5分と場を保たせることもできない。
ただ、手抜きはしないようにするため、唯斗はきちんと考えることにした。少なくとも、ちゃんとやったことは証明できるように見せなければ。
「…まずは分断か」
唯斗はそう呟いてから、視界に魔術をかけて透視状態になる。正確には、魔術回路を発見するよう魔力の流れを視覚化する強化だ。
辺りを見渡すと、ここから1キロ離れたところにAチームが固まっているのが見えた。
「…ヴァズィ」
そこで、唯斗は周囲の瓦礫を次々と転移させた。左手に魔術を籠めて、ビルの瓦礫や崩れた歩道橋、道路の一部などをAチームのいる場所に落としていく。
咄嗟にAチームのメンバーは二手に分かれたため、その距離をさらに離せるよう、絶え間なく瓦礫の雨を降らせる。
遠くから、コンクリートが互いにぶつかり合う轟音が響いてきた。
案の定、しびれを切らしたのか二人の姿を見失う。恐らくベリルとデイビットだ。快楽殺人者のきらいがあるベリルはさっさと唯斗を殺そうとするだろうし、デイビットは無駄な時間を嫌うため、この訓練自体を早急に終わらせようとしている。
二人がそうやって単独行動に入ることは分かっていたため、唯斗は次の攪乱行動に入る。
「術式拡張、強化、広範囲展開…ヴィアン」
唯斗は左手の刻印術式を、半径1.5キロ圏内に大幅に拡張した。そしてその状態で、地下3メートルほどの地面を厚さ5メートルほどにして上空100メートル地点に転移させた。
体積にして3500万立方メートルにおよぶ地面を転移させたことで、半径1.5キロ圏内の領域は一気に陥没し、瓦礫の市街地は一斉に沈没するように崩落した。崩落幅は概ね8メートルに及ぶため、ビル街は崩壊しながら細かく崩れて沈み、道路は破砕され、粉塵が立ちこめた。
さらに押し掛かるように大量の土砂が降り注ぎ、土煙も合わさって視界はなくなる。