創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラI−15
そこに、突如として上空にヴィマーナが現れた。そこから急降下してきたアルジュナは、まったく重力も空気抵抗も感じさせることなく、一切の物理法則も無視して、ふわりと一同の前に現れた。
上空数メートルほどを浮かび、こちらを睥睨する。
「マスター、挟まれている。一時的に交戦して、隙を見て離脱するしか…」
アーサーは剣を構えてアルジュナを睨むが、しかしその言葉尻にも、それが極めて難しいことだと認識しているのがよく分かった。
そもそも、あの神から逃げられるわけがない。隙、なんてものがあるタイプの神には見えなかった。殺すと決めれば確実に殺すだろう。
アルジュナがどう出るか、それが運命の分かれ目だ。
立香は牛若丸からエルキドゥに変えると、一斉に攻撃を指示する。
エルキドゥの鎖がアルジュナを捉え、ラクシュミーの剣とマシュの盾が打撃を加え、ラーマの炎の輪がアルジュナを焼き、ガネーシャの石像が押しつぶす。
しかしそのどれを以てしても、アルジュナには傷一つついていなかった。
「……、些事」
さらに、アルジュナはひとつ、腕を横に振り、たったそれだけで、立香のサーヴァントたち全員が思いきり吹き飛ばされた。
路面市や建物に激突し、壁が破壊され並べられた品物が飛び散り、隠れていた人々の悲鳴が上がる。
エルキドゥは消失し、ラーマやガネーシャも動けなさそうだ。
「マシュ!みんな!」
「っ、まずいわね…!」
一瞬、唯斗はエクスカリバーを解放しようかとも思ったが、それでは背後の市街地に被害が出てしまう。
アルジュナはそよ風が撫でた程度にすら思わなかったのだろう、無造作に鎖を破壊する。アスクレピオスは察したのか、辟易としたように問いかける。
「暇つぶしは満足したか」
「………否。失望と諦観。天地創変を耐えた者たちならあるいは、と思ったが…確かめる価値は、なかった。だが……私は、何を…確かめた……?……理解の必要性は、感じない…」
それだけ言うと、やりたいことだけやってアルジュナはすぐにヴィマーナへと飛んでいく。アスクレピオスは呆れたようにしていた。
「おい、こいつらはどうする!」
「……もはや、興味はない」
本当に興味も関心も抱かないようで、アルジュナはとっとと帰って行った。
悔しさよりもホッとしている自分に、一番悔しさを感じているのは、恐らくこの場にいる誰もが同じだろう。
「…さて、では終わらせよう。やっと僕の研究に戻れる」
アスクレピオスはアルジュナがいなくなったことを確認してから、再び死者の群れを出現させた。
動けなくなったサーヴァントたちを各個撃破するつもりだ。
唯一、ここで戦うことができるのは唯斗とアーサーだけである。
「オジマンディアス!」
「…む、此度はインドか」
唯斗だけでこの状況をくぐり抜けるしかない。立香とペペロンチーノは、散ったサーヴァントに亡者が迫るのを阻止しようとガンドなどで攻撃を続けている。防戦くらいならなんとかなるはずだ。サーヴァントたちも自分の身を守ることはできるはず。
なら、大本のアスクレピオスを叩かなければならない。
「アーサー、オジマンディアス。頼んだ」
「了解した!」
「よかろう!」
アーサーはすぐに走り出し、アスクレピオスを守るように立ちはだかったゾンビを一刀両断する。その背後にいたゴーストは、オジマンディアスの聖なる太陽光が一瞬でかき消した。
さらに、オジマンディアスが呼び出したスフィンクスが地面に影を落として立ち上がり、アスクレピオスに向けて光線を放った。アスクレピオスは蛇から光線を出して受け止めようとしたが、さすがに届かず、アスクレピオスはスフィンクスの攻撃で大きく負傷する。
さらにアーサーもグールを叩き切ってからアスクレピオスに斬り掛かるが、アスクレピオスは瞬時に回復すると、蛇の打撃によってアーサーを跳ね返した。
アーサーは空中を宙返りしながら着地する。
「チッ、往生際が悪い。騎士王とファラオ…フン、いったい何時間、継戦できるかな」
もともと魔力量の多いキャスタークラスである上に、神性まで付与されている。たとえオジマンディアスの宝具、ティンティリスの中に彼らを閉じ込めたとしても、神性を持っていれば攻撃は通る以上、意味を成さないだろう。
だが、アスクレピオスだけならまだなんとか、撤退は可能だ。立香とペペロンチーノで倒れたサーヴァントたちを回復させてから、唯斗が時間を稼げば可能性はある。
そう思って次の指示を出そうとした瞬間、突然、亡者たちが一斉にかき消された。一瞬にして塵と化したことに、唯斗だけでなくアスクレピオスも驚愕する。
「な…っ、僕の検体が…!誰だ!!」
「足を運んでみれば死者の国とは驚かされる。今回だけの特例なのか?」
「…は、デイビット…?」
思わず口に出ていた。
ペペロンチーノも「ウッソ!?!?」と素っ頓狂な声を出している。