創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラI−16
なんと、現れたのはクリプターの一人、デイビット・ゼム・ヴォイドだった。後ろに無造作に流した金髪に切れ長の瞳、逞しい体躯、そして何より、底知れないオーラ。
アーサーとオジマンディアスが、アスクレピオスに対するものよりも警戒心を高めた。
「…マスター、あれも元Aチーム…クリプターなんだね」
「あぁ。Aチームの中でも…一番、なんていうか、敵に回したくない相手だった」
不気味な人間だったのはベリルだ。だが、底知れない相手だったのはデイビットだった。アメリカの出身で、時計塔の伝承科を追放された過去がある、ということしか知らない。
『なに!?デイビットだと!?Aチームの中でもトップクラスの実力を持つという…!やつも別の異聞帯を育てているはずでは!?そ、それに…』
通信ではゴルドルフが驚いて喚いているが、そのゴルドルフも、観測された霊基に気づいている。
当然、こちらもデイビットが伴っているサーヴァントらしき靄に気づいていた。あれはサーヴァントだと見ていいが、瘴気だろう、あまりに濃い魔力の霧によってまったく窺い知れない。
「…、唯斗よ。あれは…どういうことだ」
「何も分かる余地がない、ってことだけは確かだ」
オジマンディアスがここまで警戒心を露わにするのは初めて見た。サーヴァントならそうだろう。
あの靄の中にいるのは、間違いなく、グランドクラスの霊基だ。ビーストとの戦い、あるいはそれに相当する人類史の危機にしか現れないはずの最上位の格を持ったサーヴァントである。
過去、グランドアサシンである山の翁、グランドキャスターである魔術王ソロモンとは会敵したことがあったが、それに近しいものを確かに感じる。しかし、瘴気があまりに濃いため、正確な姿をあらゆる意味で知覚できなかった。
そのサーヴァントは霧の中から声を発する。
「ヤマねぇ…死者を裁く、なんて思想は何の冗談だ?死は食うもの、生は捧げられるもの。死者に自由を許すなど、俺の世界にはない無法だ」
「あまり前に出るな。ここはお前の土地じゃない。旅先の生水は飲むなと言われなかったか?」
「そりゃごもっとも」
サーヴァントはそう言うと、自分から消失した。一切の気配を絶っている。
言葉だけ見れば、生と死を両方司ることができる神格、という可能性だけは見えてくるが、それはそれで該当するものが多くいる。
そこに、ペペロンチーノが走り寄ってきた。
「ちょっとどうしたのよデイビット!心の準備っていうか、髪型とかも決まってないっていうか、やだわ、本当やだちょっと待って!」
「待った方が良かったか?窮地と見て助けたが。まぁ…」
デイビットはペペロンチーノに返してから、今度は唯斗たちの方を見た。オジマンディアス、アーサーと目を移して、最後に唯斗を見つめる。その得体の知れない視線に、思わずたじろぎそうになった。
「…雨宮唯斗。お前は2年以上、カルデアで過ごしてグランドオーダーにあたったのだったな。その成長、と言うなら驚くことではないが…まさかお前が、市民を気にして宝具の展開を躊躇うとは。その英霊2騎であれば、すぐに倒せただろう」
「……、お前ってわりと、俺への評価高めだよな。眼中にないかと思ってた」
確かに、唯斗のサーヴァントなら、アスクレピオスを含め町ごと吹き飛ばすことはできただろう。一方で、そんな指示に従う英霊もまたいないのだが。
それにしても、デイビットのような人物が自分に関心を持つことがいまだに解せず、はっきりとそう言った。爆発事故前もそうだったが、この男は意外にも唯斗をよく見ている。
「俺も、お前がペペロンチーノやキリシュタリアのような力のある人間だとは思っていない。強いて言うなら、物珍しいものを見ている、というだけの気分だ。それに、お前がそこの騎士王とともにロシアや北欧、中国、あるいはブリテンを担当していたならば、あるいは…」
やはりじっとこちらを見る視線に耐えきれず、唯斗は早くいなくなって欲しいとばかりに投げやりに答える。
「まぁ、なんでもいい。お前がわざわざ自分の持ち場を離れて行動してるんだ、目的はカルデアじゃないだろ」
「その通りだな。ペペロンチーノに用があった」
なんであれ、これ以上この男が唯斗と会話を続けることはなかっただろう。無駄なことを嫌うデイビットは、もう唯斗に対して言いたいことはすべて言ったはず。むしろ、彼にしては言葉が多かった。
そうしてデイビットはペペロンチーノといくらか会話したが、まとめて言えば「様子を見に来ただけ」である。
もうひとつ、デイビットが自分の担当する異聞帯からコヤンスカヤの力を借りてインドにやってきたことで、コヤンスカヤの力を測る、という目的もあったらしい。
コヤンスカヤはまだアルジュナが付近にいることもあっておとなしくデイビットの帰路を待っていた。
最後にデイビットは「満ちたものからは引けばいい」とだけペペロンチーノにアドバイスしてから、一瞬だけ立香を見て、コヤンスカヤとともに去って行った。マシュを含め、唯斗とペペロンチーノ以外の誰とも会話はおろか視線を合わすこともなかった。
その後、なんとか会話をしている間に回復したラーマたちとともに町を脱出し、アスクレピオスも負傷から追い詰められないよう撤退。痛み分けのような形でこの町での戦いは幕引きとなった。