創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラII−2
そうして話しているうちになんとかカリは撃退できたものの、今度こそ、ウィリアム・テルの矢はこちらを狙うようになった。マシュが必死に矢を弾くが、全方位、どこから飛んでくるか分からない。
アーサーやラーマも、飛んでくるものを剣で弾いている。エミヤは鐘楼からウィリアム・テルを狙った狙撃したが、それも空中で弾かれ、さらにその矢が鐘楼を直撃。エミヤはすんでで避けたものの、鐘楼は轟音ともに崩落した。
エミヤは唯斗のすぐ傍に着地する。
「マスター!あれは遠距離戦では敵わない、セオリー通り接近するほかないぞ」
「分かった、ありがとう。いったん戻ってくれ」
エミヤをまずカルデアに戻してから、移動手段を考える。ウィリアム・テルの矢はどこから飛んでくるか分からない上に、空中を屈折して飛んでくるため、防ぐにはこちらに接近してからでなければならない。
遮蔽物として建物を利用しては、今度はビーチュの市民がカリの襲来を耐える場所を失ってしまう。
マシュはまた一撃防いでから、なんとかこちらに呼びかける。
「動かないでください!立ち止まってやっと防げている状態です!」
『下手に動けばバランスが崩れるということだね』
つまり、膠着状態だ。下手に町を飛び出せば集中砲火を喰らうだけだ。こちらはマスター二人にたった一撃でも当たってしまえば終わりという状態、圧倒的に不利である。
すると、ラクシュミーは近くにいたアジャイに、馬と荷台を用意するように頼んだ。
「私に策がある。私が馬を操り、荷台に乗る貴殿たちをヤツのところまで辿り着かせる。必ずだ。ただ、さすがにマスター二人を、というわけにはいかない」
「分かった、俺とマシュで荷台に乗る。唯斗は町の人たちに流れ弾が当たらないようにお願い」
「……了解した」
ラクシュミーには何か策があるらしい。荷台には立香とマシュが乗って、守りを固めながら、それでもウィリアム・テルのところまで接近できるという。
市民の防御も重要だ、唯斗は食い下がりたいのを我慢して頷いた。
馬車に乗り、ラクシュミーが馬車を出発させると同時に、立香とマシュが飛び乗る。ラーマは離れて後を追う。
すると、町の外へ向かう道を爆走する馬車を狙った矢が、ラクシュミーに直撃した。ただ、それは馬を狙っていたように見える。
「…、アーサー、あの軌道…」
「あぁ。元の目標から外れて、彼女に当たったように見える」
アーサーも同じ見解だ。
不思議なことに、矢は馬や荷台など別の目標を狙っていたように見えるのに、なぜか必ずラクシュミーに当たってしまうのだ。しかも、それはまさに「悪運」のような、些細な因果によるものだ。
血だらけになりながらも、必死に御者台で馬を走らせながらビーチュの外へと出て行った姿に、戦っていた人々は呆然としていた。
あれは、本当にラクシュミーの神性を持つ霊基なのだろうか。
幸運の女神であれば、むしろ「幸運にもラクシュミーを外した」という結果こそが相応しいはず。
「…ペペロンチーノ。もともと疑問だったんだ、異聞帯内部で自然召喚されたサーヴァントのはずなのに、なぜか吸収されたはずのインドの神性を得ているなんて」
「……なるほどね。言いたいことは分かったわ。でもね唯斗ちゃん、それは彼女が自ら口にするまで話題に出しては駄目よ」
唯斗の疑問を、それだけでペペロンチーノはすべて理解した。その上で忠告してくれたため、背の高いケバケバしい顔を見上げる。
「…分かってるよ。なんであれ、ラクシュミー・バーイーであることに変わりはない。インドの民衆のために血を流した英雄だ」
「ふふ、余計なお世話だったわね」
ペペロンチーノはそう笑ってウィンクをした。
それに、隠していることがあるのは、こちらも同じだったのだから。