創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラII−3


夜、広場を見下ろせる市内隔壁の上に、唯斗と立香はやってきた。ラクシュミーに呼ばれていたためだ。

ウィリアム・テルをなんとか退けたあと、ラクシュミーに異聞帯の戦いについて説明し、怒りを露わにした彼女と改めて話す場を設けたのだ。

先に来ていたラクシュミーは、柵に寄り掛かって月を眺めていたのを止めて、二人に視線を移す。


「悪いな、呼び立てて。お前たちに聞きたいことができた。分かるだろう?異聞帯の…彼らの行く末について。マスター、サーヴァント、王妃、魔術師…それらの立場を抜きに、一人の人間同士として」


こういうところは近代の英霊らしい。欧州の近代法にも精通していたとされる王妃だ、武勇だけでなく教養も高い人物だったため、きちんと話そうとしてくれている。

ラクシュミーが尋ねていることは、ロシアで雷帝に問われたことと同じだ。立香がそれに答えを出せたかは分からない。ただ、その迷いに結論が出ていないこと自体は、立香にとってそれが悪だと感じることでもなくなっているようだ。

立香と目を合わせ、唯斗から話すことにする。


「俺は、最初の異聞帯…16世紀を境に汎人類史から分岐したロシアの異聞帯から、ずっと答えは出てる。異聞帯の人々を文明ごと消し去ることに、俺は、なんら理由を見出していない。汎人類史が続くべきだから異聞帯を消した、なんてことも考えず、一切正当化をしないで、俺は、異聞帯の人々を殺すことを意味していても、異聞帯を滅ぼす」

「…それはあまりに苦しい道だろう。なぜだ」


ラクシュミーは唯斗の言葉に怒ることはなく、あえて苦しい考え方をする理由を尋ねた。唯斗の意図も、きっと彼女はある程度理解しているのだろう。


「俺にとって、歴史ってものは居場所だった。母は俺を産んだことで命を落として、父はそれが耐えがたく、俺を生け贄にして死者蘇生を図った。魔術師の組織からも、親戚からも疎まれて、フランスの家ではいじめられ続けて、ずっと一人だったけど…それでも、俺が歴史を学んでいる間は、一人じゃない気がした。自分の生きる場所が、時代が、歴史の延長線上だと知ることは、それ自体が、世界そのものが、まるで居場所のように感じられたから」

「……、」

「…だから、歴史上滅びたもの、滅ぼされたもの…それが、続くべきものではなかったから滅びたんだとは、思わない。それは、グランドオーダーで、滅びた古代文明を訪れたときに改めて感じたことだった。ジャーンシーやムガル帝国が、滅びるべきだったわけではないように」

「……滅びるべき理由があったわけではないことを、居場所たる歴史に学んだからこそ、異聞帯にもそれを見出さないわけだな」


ラクシュミーはやはりすぐに理解してくれていた。唯斗は頷く。


「あぁ。だって、死んでいい人間なんて、いないだろ。国家や文明に滅びていい理由がないのは、突き詰めれば、そこに生きる一人一人に、死んでいい理由がないからだ」

「滅びた文明の一人一人を知るからこそ、異聞帯を滅ぼす戦いに覚悟を決めているのか。そうか…分かった。ありがとう。藤丸、お前はどうだ」


唯斗の考えに理解を示してから、ラクシュミーは立香にも問いかける。

立香は、唯斗ほど明瞭ではないながらも、自らの迷いを、迷いなく話した。
汎人類史が為す術なく漂白され、再び人類史を取り戻すための戦いを余儀なくされ、そのためには空想樹を伐採するより他になく、まだ、それを自分の中で折り合いをつけられていない。そう話すと、ラクシュミーはそれにも感情を荒立てることはなく、むしろ、唯斗の考えよりも共感しているようだった。


「…同じなのかもしれんな。あの反乱の中にいた、私と。私も、インド大反乱の先に何が待つのか、考えていなかった。あまりに、それ以外に道がなさすぎて。同時に、その道を進むのが、困難すぎて」


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