創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラII−4


第一次インド独立戦争とも呼ばれるインド大反乱は、かつてその主戦力がシパーヒーというインド人傭兵だったことからシパーヒーの乱とも呼ばれた。
実際には、シパーヒーだけでなく、農民から王族まであらゆる階層の人々が立ち上がったことから、現在はインド大反乱と呼ばれるのだ。

シパーヒーの軍勢は、ジャーンシーを制圧したあとデリーへと向かい、空白地帯となったジャーンシーでは廃位された王の王妃だったラクシュミーが擁立された。
いわば地滑り的にラクシュミーは民衆を率いることになったが、最終的には最も勇敢に戦う立場となり、ジャーンシー陥落後はグワーリヤルで最後の激戦を繰り広げた。

この大反乱の結果、ムガル帝国を東インド会社が経済的に牛耳るそれまでの統治体制は刷新され、イギリスによる直接統治、すなわち英領インド帝国が成立することとなった。

ラクシュミー・バーイーには、歴史を変える術はなかった。ただ、そうなってしまっただけで、それでも、彼女は進むことが正しく、またそれしかないのであれば、「進めてしまう」と言った。


「…まぁどうあれ、ここでお前たちと話して、胸の内を知れたのは良かった」

「これからどうするんですか?」

「…納得はしない。が、人々が神に弄ばれるのを認めるわけにもいかない。問題の先送りなのかもしれないが、これからすべきことが、これまでの延長線上にしかないことも確かだ」

「…これからも助けてくれると嬉しいです」


すると、立香は何の衒いもなくラクシュミーにそう言った。ラクシュミーは目を丸くしてから破顔する。


「おかしなヤツだな。なんの躊躇もなくそう言えてしまうとは。それにしても、民を守ろうとする私に殺されるとは思わなかったのか?」

「唯斗がいれば初撃くらいは防げると思ったのも事実だけど…何より、俺も唯斗も、あなたと人間として話したかった、話すべきだと思った。そうだよね?」

「あぁ。今の世界の繁栄は大英帝国あってのもので、大英帝国はインドあってのものだった。インドを初めとする植民地化されたアジア・アフリカに流れた血の上に、今の汎人類史がある。俺たちは再びインドで血を流し、異聞帯を滅ぼすけど…だからこそ、その戦いにあなたを巻き込むなら、こうして話すべきだと思ってた」


スケールが世界と世界である、というだけであり、実際にはこの戦いもまた、人類史の歩みと似たようなものだ。欧州の華やかな近代文明は、人類の豊かな現代社会は、過去の植民地での苛烈な犠牲の末にある。
それと同じように、異聞帯の犠牲の上に、汎人類史が継続することになるというわけだ。

それならば、犠牲を強いる側として戦うのならば、ラクシュミー・バーイーにはきちんと話さなければならなかった。


「…そうか。そうやってお前たちは、三度、異聞帯を打ち倒してきたのだな」


ラクシュミーは痛ましそうな顔を一瞬だけしてから、それらをすべて飲み込んで、再び意志の強い瞳を開く。


「…夜更けに呼び出してすまなかった。話は以上だ」

「うん、おやすみ」


立香が踵を返したため、唯斗も一緒にラクシュミーから離れて歩き始める。恐らくアーサーもマシュも、近くに控えていたことだろう。二人とも、サーヴァントとしてラクシュミーの動向を注視していたはずだ。

間借している公会堂への夜道を二人で並んで歩いていると、立香が口を開く。


「…俺、まだ異聞帯を滅ぼす戦いをしてること、考えがまとまってないけど…そうやって迷ってていいって、それが間違いじゃないって唯斗が教えてくれて、一緒に歩いてくれるから、迷ったままでも戦える。唯斗が一緒で良かった」

「俺が何かをしてやった、なんてつもりはないけどな。今の俺は立香あってなわけだし。でも、お前と一緒で良かった、ってのは、まぁ、同感だ」

「……、」

「………」


揃って気恥ずかしくなり、言葉が互いに止まる。
つい視線を合わせてしまい、そしてしょうもない沈黙が起きてしまったことに、二人して小さく噴き出した。


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