創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラII−5


インド異聞帯に入って12日、ついに二度目のカリ・ユガの日がやってきた。

相変わらず、荒廃した大地から巻き上げられた砂で空は濁り、町からは黒煙が立ち上り、大量のカリが押し寄せて次々と建物を破壊し人々を食っていく。
だが今回は人々も応戦している。頃合いを見て離脱して、ボーダーに一時退避することになっていたが、無事になんとかなりそうだ。

しかしそこに、やはり神の将がやってくる。


「駄賃をもらった分の往診くらいはしよう」

「アスクレピオス…!」


現れたのはアスクレピオス。地中からは次々とゾンビやグール、ゴーストが出現する。


「あの神はあれで気前がいい。足りないと言ったらくれたよ。新たな神性を」


そう言って、アスクレピオスは亡者たちや聖獣に水をふりかけた。途端に亡者と聖獣は強化されていく。


「西の神、ヴァルナか…!水天、医術も司る神なら親和性は高い…!」


どうやらアルジュナはアスクレピオスに新たな神性を与えたらしい。恐らく一撃で仕留めなければ回復されてしまうだろう。アスクレピオス本人にも、回復量を上回る攻撃を与える必要がある。

それにしても、神性を二つも与えられてアスクレピオスの霊基は大丈夫なのだろうか。いくら半神といえど、限度がある。

いや、そこが勝機だ。


「立香、カリの方は任せた。アスクレピオスは俺が担当する」

「分かった!」


カリの攻勢は激しく、中には合体して巨大化したものもいる。そちらを立香たちに任せて、唯斗はアスクレピオスを個別に撃破することにした。


「オジマンディアス、来てくれ」

「…ほう、再戦か」

「リベンジマッチだ。ここで仕留める」


呼び出したのはオジマンディアス。魔力消費量は嵩むが、短期決戦を狙いたい。


「それから、ガウェイン」

「ガウェイン、ここに」


さらに唯斗はガウェインも呼び出す。現れたガウェインは、ガラティーンを構えてアスクレピオスに向き合う。
アーサー、ガウェイン、オジマンディアスと、まさに火力特化だ。


「僕はかつての僕以上の僕だ!今ならその愚かさも治療してやれるかもな!」

「…哀れなものよな」


小さくオジマンディアスはそう言った。オジマンディアスも、アスクレピオスの霊基の状態に気づいているらしい。


「…、アーサー、ガウェイン、こっちに来る敵性体の掃討。オジマンディアスは、太陽をここに」

「よかろう!」


アーサー、ガウェインは一気に目の前に立ちはだかる数十体の亡者と聖獣を薙ぎ払う。一方、オジマンディアスは右手を高く掲げ、その上空に魔力を集積させていく。
アスクレピオスは次々と亡者を出現させ、聖獣を強化してこちらにけしかけた。

ガウェインは横向きにガラティーンを振り、炎で亡霊たちを焼き尽くしていき、アーサーは魔力を放出しながらエクスカリバーによって聖獣を切り裂く。
同時に、オジマンディアスが集めた魔力は十分な域に達した。


「よし、オジマンディアス!」

「ふはは!平服せよ!!」


オジマンディアスは右手を振り下ろす。その途端、空を包む砂の天井が部分的に消え失せ、太陽のような眩い光線が空からまっすぐ落ちてきた。アスクレピオスを直撃し、アスクレピオスは「ぐああッ!」と呻いて焼けただれる。
瞬時にアスクレピオスは回復していくが、オジマンディアスの放った光線によって、空から一筋の日差しが広場を照らしていた。


「ガウェイン!」

「はっ!!」


その日差しによって、ガウェインの聖剣が纏う炎は勢いを増す。3倍の威力になった状態で、ガウェインは瞬時にアスクレピオスに迫ると、その胴体に勢いよくガラティーンを突き刺した。
同時に炎を噴き出す。


「がッ、は…っ!!」


アスクレピオスは血を吐いて、剣を引き抜かれるとともに地面に膝を着いた。風穴が空いた胴体から大量の血が地面に流れ出るが、アスクレピオスの回復は発動しない。


「ぐ…っ、はっ、な、に…!」

「…半神の霊基で、異なる神話体系の神性を二つも容れたんだ。保つわけ、ないだろ」

「な…っ、まさか、あの神はそれすらも些事だと…」


そう、すでにアスクレピオスの霊基は限界を迎えていた。無理矢理、神性を押し込められて、ただの半神の霊基では堪えられるわけがなかったのだ。


「くそ、あいつも同じか…!医の価値を理解しない愚病の神め……いや、いや。そうか、愚かだったのは……」


アスクレピオスは退去の光に包まれる。致命傷だったため、もう現界を維持できなくなっていた。


「…医薬も過ぎれば毒となる。その見極めを怠った、恥ずかしすぎる過誤だ」


オーバードーズは避けるべき初歩的な処方ミスだ。それすらも見えなくなるほど、アスクレピオスはこの現界に賭けていた。
アスクレピオスは、最後にこちらを見据える。


「…おい、最後に聞かせろ。お前たちから見て、そんなに僕はおかしかったか。僕は人間のための医術の進歩を求めている。女、子供、老人、誰だって医術の恩恵を受けていい。僕はただ、優れていても排斥されない世界を求めていただけだ」


確かにそれ自体は悪ではない。アスクレピオスのおかげで、人類は医術を神の領域ではなく人の知識体系に組み込むことができたのだから。
だが、アスクレピオスの杖が象徴するものに託された医学の価値は、少しだけ、彼の求めるものとずれていた。


「…優れているかどうかで、生死も受けられる医療も決められない世界。それを目指したのが、汎人類史の現代だ。優れていても排斥されない世界じゃない。優れているかどうかを考慮しない、そんな平等を、俺たちはあなたの杖に願い託してるんだよ」

「……そうか。それは確かに…この世界が、剪定されたわけだ」


それを最後に、アスクレピオスは消失した。どうしようもないものを見たような、そんな気の抜けた笑みを浮かべていた気がした。


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