創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラII−7
ビーチュを出てすぐ、アシュヴァッターマンはこちらの追跡を始め、どうやって処理したものか、と思ったところ、突然アシュヴァッターマンは追跡をやめた。
遠くから見る限り、動けなくなった、といった感じだ。ウィリアム・テルの矢がそれほど致命傷だったとは思えない。
なんにせよ、動けないのならチャンスだ。走る速度を速めると、前回より遥かに早いタイミングでボーダーが前方に見えた。向こうからも接近してきてくれている。
通信からもムニエルの声が聞こえてきた。
『こちらからも藤丸たちを捕捉!…って、ん?んん??待った、ちょっと待った!』
ムニエルが慌てたのと同じタイミングで、アーサーは再び剣を出現させた。
「マスター、合流地点付近にサーヴァントだ。しかもあれは…」
「…え、コヤンスカヤ?」
アーサーに示された方角に視界を強化して見てみると、コヤンスカヤがボロボロになった状態で「私を虚海に連れてって♡」というパネルを掲げている。
ヒッチハイクのつもりだろうか。
ボーダーもこちらも、一斉に微妙な空気になる。
『…うーん、どうしようか。ちょうど合流地点付近にいるから、避けて通ると時間ロスになるし、近づけば何が起こるが分からない』
「まぁ…でもボロボロだし…」
悩ましげなダ・ヴィンチに、立香はいつも通りの姿勢を示す。それに対して、ゴルドルフから至極真っ当な返答が返ってきた。
『おいおいおいおいィ!まさか、まさかだが藤丸!確かに中国では共闘もしたが、和解したわけではないのだよ!』
「でもこのまま助けないのも寝覚めが悪いので、助けたいです」
「俺も立香に賛成だ。貸し1ってことで。あいつ、そういうの律儀であろうとするだろ。それがあいつの信条というか、在り方なんだと思う」
そこらのカリに負けてああなるとは思えない。カルデア以外の勢力がないと仮定すると、恐らくコヤンスカヤは、アルジュナサイドと交戦したのだ。
経緯は分からないものの、それなら敵対することもないだろう。
『うむ…仕方あるまい。困っているものを見捨てて後で問題になる方が困る』
「ま、そうよねー。困ってたクリプターだって乗せてくれたんだし」
『だが気をつけるのだぞ諸君!あの毒婦の色香には、この紳士である私ですらスコーンとやられたのだからね!』
『いや、今更あの女の本性知ってるのにそれはないだろ…』
『いや!君のような三次元には興味ありませんというような草食男子こそ籠絡されるのだ!』
『余計なお世話だ!』
ボーダーの方ではそんなしょうもない会話が続くが、とりあえず、コヤンスカヤも回収するという方向でまとまったようだ。
ボーダーは唯斗たちとコヤンスカヤを遮るような形で停車し、甲板のハッチを開く。
甲板に飛び乗ると、コヤンスカヤも同じく乗ってきた。
「止まってくださった、ということはヒッチハイク成功でしょうか?」
「ちゃんと話は聞かせてもらうよ」
「乗車賃は安くねぇからな」
「それはもちろん。ギブアンドテイク、乗せてもらうお礼はしますとも♡」
立香と唯斗の言葉には、コヤンスカヤは思った通りに答えた。やはり、このイーブンな関係というものを信条とするような性質であるらしい。
直接、アルジュナ陣営との敵対関係になったような人物だ。より有益な情報が得られるかもしれない。
そうして一同は無事にボーダーに乗り込み、虚数潜航を開始する。今回も間一髪での成功となったが、本来、それが間に合わないはずのものだったということにカルデアは気づくことのないまま、インド世界は再び滅亡を迎えた。