創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラII−11
何度も繰り返された世界の創変。それはこの世界そのものに多大な歪みを与えており、もはやこのユガは、まさに末期を迎えるその瞬間であるようだった。
まだ本来ならトレーター・ユガの初日であるはずなのに、一瞬にして、カリ・ユガに至っている。もう日数などなく、急速に終焉へと向かっている。
アルジュナはこの段階に至ってカルデアを明確に排除する姿勢を示し、直接、魔力攻撃を行ってきた。空から光線が打ち落とされ、地上はカリと聖獣が迫る。
そんな中を、ゴルドルフの巧みなドライブテクニックによって、ついに神の空岩の麓へと辿り着いた。
この箱の影にボーダーは隠れ、アルジュナから見えなくなったのか、それ以上の追撃はない。
急いで立香とマシュを先頭に外へと駆け出る。唯斗とアーサーは周囲の警戒にあたり、マシュは立香を傍で守る。
そして、立香は巨大な箱の最下部にそっと手を触れた。告げるのは、さきほど決めたばかりの合言葉。彼女たちが聞いたのは、きっと数千年前のことになる。
「引きこもりだって、空を見ていい」
その言葉と同時に、眩い光が放たれ、巨大な箱はかき消えた。代わりに、その外隔をなしていたラクシュミーが膝から倒れかけて、ラーマに支えられた。
さらに、ガネーシャもフラフラとしながら現れて、地面にぺたりと座り込む。
「ガネーシャさん!」
「ガネーシャ!!大丈夫!?」
立香とマシュが駆け寄ると、ガネーシャは虚ろな視線を彷徨わせ、ブツブツと言いながらゲーム端末を開く。
「…確か……絶対、忘れちゃいけないものは……ここに…そう、君の名前は、藤丸立香」
ガネーシャの視線はようやくピントが合う。だんだんと生気が戻ってきて、ガネーシャは智の神であることもあり、その記憶を起点にすべてを思い出す。
途端に、ボロボロと涙をこぼした。
「あ…あぁ、待たせすぎっスよぉ…!!」
どうやら無事、ガネーシャは気が狂うほどの長い閉塞を耐えきったようだ。ボーダーの内外から安堵の息が漏れる。
『これで、あのアルジュナは絶対的な神ではないことが証明された。天地創変という大きな行為を乗り越えたという瑕疵証明だったからこそ、このようなものを今に至るまで残し続けていた不出来な神という零落ぶりをもたらした』
ホームズの淡々とした言葉には、一方で、とてつもない功績への称賛が籠められている。
しかし、これだけの偉業を成し遂げた反動から、アシュヴァッターマンは退去する。光に包まれて消えた直後、入れ替わるように、別の霊基が光とともに出現する。
ガネーシャはそれを見て、気が抜けたように微笑んだ。
唯斗は、今この瞬間に起こったことを大まかに理解するのと同時に、これがマハーバーラタの英雄たちの力か、と思わずにいられない。
「そうか…アルジュナは、たとえ自我を失っても、カルナに連なるスーリヤだけは取り込まなかった。だから、それが隙となって…アシュヴァッターマンが自らの霊核を使って再召喚を可能にしたのか…!」
「なっ、マスター、ということは…!」
アーサーも目を見開く。あまりに突拍子もないやり方だからだ。これがインド神話である。
「…あはは、何百年も何千年も待つのは、正直、だいぶキツかったっスけど。必ずまた会えるって言ってたから。それはもう、約束と同じ。カルナさんは、嘘は絶対につかないって、知ってたっスからね」
光は形を成し、そして、すらりとしたサーヴァントの姿が現れる。
立香に支えられるガネーシャを見て、カルナは微笑んだ。
「素晴らしい成果だ。素晴らしい成果だ、ジナコ=カリギリ。ふてぶてしいが、春の微笑みのような、いい顔になったな」
ぼろぼろと涙をこぼしながらも、一際眩しい笑顔で、ガネーシャは笑い返した。