創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラII−12
アシュヴァッターマンの霊核を縁に再び現界を果たしたカルナは、アシュヴァッターマンからシヴァ神の権能の一部を一時的に借り受けていた。
とはいえ、アルジュナはいまだに全インドの神性を取り込んだ存在であることに変わりなく、ガネーシャたちの奮闘によってその神性は大きく削がれているものの、それでもやっと同じ土俵に立てる、という程度だ。
もう少し決定打があればと思わずにいられないが、それを待たずに、アルジュナが上空に現れた。
カルナは冷静にそれを見上げる。
「降りてこいアルジュナ。降りてこないのなら、俺から上るまでだが」
アルジュナは無言で応じると、一同の前にゆるやかに降り立った。地面には触れていないが、今までで最も近いところに滞空している。
「…カルナ……知っている。お前は、カルナ、だ…」
「そうだ。そして今からお前を倒す」
「なぜだ…なぜ、邪魔をする……?お前も、見たはず…あの、愚かな、戦争を……不出来で不要なものを滅する…その刃にて管理される…我が世界は…絶対的に、正しい…」
その言葉とともに、地面が揺れ動き、空が赤黒く変色した。雷光が暗雲の間に迸り、禍々しい空気が大地に満ちる。
世界の終焉と聞いて誰もが思い浮かべそうな、そんな光景だ。
「これは…その、証左。正の極点へと至る…最後のユガの…終焉」
「俺はこの世界を見ていない故、正しいかどうかには口をつぐむ。俺の信頼する者たちの言葉を代わりと思え」
カルナはアルジュナへの返答を、こちらに託した。ならば、人である唯斗と立香が答えるべきことだろう。
立香は一瞬だけ唯斗と視線を合わせてから、先に口を開いた。
「この世界は、正しすぎて間違ってるよ」
「あら、なかなか面白い見方ね。でも同意よ、正しい側面だけの人間は、必ず間違っているものだもの」
立香の端的な言葉に、ペペロンチーノはニコリとして同意した。確かに、矛盾のようだが、正しさとは正しさだけで成立することができないものだ。
そして、唯斗も言葉を続けるべく息を吸う。先ほど、ボーダーでゴルドルフが言っていたことにも通ずるものがある。
「…俺は、生まれたときからずっと、不要なものだった。俺が生まれなかったイフの世界、特異点を見て確信した。きっと俺が生まれてこなかった方が、みんな幸せだった。ならば、俺は本来、不要で不出来で…アルジュナの理論から言えば真っ先に消えるべき存在だ」
「……マスター、」
アーサーはそっと声をかけるが、少しだけ振り返って笑いかける。もう唯斗は大丈夫だ。グランドオーダー、レムナントオーダーを経て、そう思えるようになったのだ。
「誰からも存在ごと否定されてきた俺だけど、それでも、今の俺には、俺を必要としてくれる人がいる。それを、知ってる。たとえ誰からも価値を認められなくても、世界に居場所がなくても…俺は、居場所をくれた歴史を続けたいと思った。それは、俺と、俺のことを大切に思ってくれる人たちにとっての価値だ。人は変われるということに、世界の文明で最も期待して理論を体系化したのは他ならぬインドだ。そのインドで、人の可能性をすべて否定する行いを繰り返すんなら、俺はそれを全力で止める」
アルジュナはじっとこちらを睥睨してから、その目線を厳しくする。
「…理解せぬ…なんと、愚か。不出来にして不要、即ち…邪悪なり」
「ンン、然り、然り!これは神の手にて直接裁きを下す必要があるでしょう、ええ、はい」
そこに、別の大柄な男が現れた。長い髪の巨躯、日本の僧めいた格好をしているようにも見える。コヤンスカヤが言っていたクソ坊主とやらだろう。つまり、異星の神の使徒、アルターエゴだ。
「あら。ついに我慢できなくなって登場ですか。まあ当然ですね、この神が最後の砦ですもの」
「あれは…!」
立香もアルターエゴを見て険しい表情になった。立香がこういう顔をするのは珍しい。