創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラII−13
『あれは並行世界…今では小さな異聞帯だったと言えるだろう。下総にいたキャスター・リンボと霊基の特徴が一致している。今のクラスはアルターエゴだがね』
ホームズの解析で、ようやくあれが下総の惨状を引き起こした元凶であることが分かった。並行世界の天草を妖術師として仕立て上げ、土気城を軸に下総を地獄と変えた陰陽師。
安倍晴明を名乗ったが別人とのことで、実際には敵対していたという同時代の高名な陰陽師、蘆屋道満あたりだろうと推測するが、あまりそういうことを指摘してはならないタイプの存在に見えた。
とにかく纏う空気が陰湿で悪質なのだ。
マシュは警戒して盾を構える。
「コヤンスカヤさん、あれが…って、いません!コヤンスカヤ、『終業時刻なので失礼しますね』という置き手紙を残して消えています!」
話しかけた相手、コヤンスカヤはいつの間にか姿を消していた。異星の神とは不可侵の約束を交わしているらしく、カルデア側に立つのもここまでということだろう。
『リンボ、君が姿を現したということは、直接手を下す必要があると判断したのかな』
「いえ、いいえェ。礼儀として顔を見せはしましたが、まだ拙僧が切った張ったをする段階ではございません。しかし、ええ、お望みとあらばいくらかお見せしましょう。私が神の前座を務めるなど、いやはや、畏れ多い!!ハハハ!!」
そうは言っているが、結局のところ、リンボは一番近いところで事態を見ていたいだけなのだろう。自分にマイナスが出ない範囲でギリギリのところに留まるつもりだ。
そこに、カルナがアルジュナへと問いかける。リンボにはまったく視線をくれることすらなかった。
「アルジュナよ。そもそもお前はなぜ、神々を食った?それほどまでに力を求めた?正義を為すためであろうが、アルジュナは『正義のための非道』は選べない。分かっている。であれば、それを為した者は別にいるはずだ。俺はそれを知っている」
「……!」
「あのとき、俺に向けられた矢の向こうにいた存在。アルジュナの中のクリシュナだ。『今ここにいるお前』の主体は、本当はクリシュナの方なのではないか?」
「っ!」
マハーバーラタにおいて、アルジュナの親友であり、かつヴィシュヌの化身として「バカヴァット・ギーター」を説く人物がクリシュナだ。
しかし、カルナの言うクリシュナは、アルジュナに内包された存在だという。いったいどういうことなのだろうか。
「本来秘されているはずの性質が何らかの理由で反転し、表に出たそれが神性を貪欲に獲得した結果生まれたものだ。アルジュナでありアルジュナではない反転者。それがお前の正体だ」
「っ…、わ、たしは…っ?!」
具体的なことはいまいちよく分からないが、なんにせよ、カルナの言葉からこの神たるアルジュナの本質は理解できた。
これはアルジュナ・オルタ、反転した姿ということだ。
「いけません、これはいけませんねェ。落ち着きなさい。完璧な神に必要なのは力です。自らの在り方に疑問を抱いてしまったのなら、真の正しき神の導きによりて新たな力をご提供差し上げましょう」
リンボはそう言うと、アルジュナ・オルタとともに一瞬でその場を離脱した。ヴィマーナに乗って、暗雲立ちこめる空を駆けていく。
『行き先は推理するまでもない。この状況でヤツが頼るものは一つだけだ』
『全力で追うよ!みんなすぐボーダーに乗って!』
アルジュナ・オルタは、自己を疑うという神として最も神性を零落させる状態になった。これならば、シヴァの力も持つカルナを軸に戦って勝機が見えてくる。
目指すはインド北東、聳える開花間近の空想樹だ。