創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラII−15
ボーダーの後方からは聖獣たちが迫ってきている。すでにアルジュナ・オルタは空想樹にアクセスしていることだろう。
かなり開花が進んでいる空想樹がこれ以上本領を発揮するのはまずい。
唯斗はさすがにそろそろ急かすことにした。
「…キャプテン。シオンがボーダーに乗せたやつ、今から使うんだろ」
「へぇ、話には聞いていたけど、君は本当に察しがいいね。ダ・ヴィンチ、早く権限寄越して。君も気づいているんだろう」
『やっと答え合わせかい?いいよ』
電算室のダ・ヴィンチから、ボーダーの管理権限がキャプテンに移される。エンジンとは違う、エネルギーの駆動音が聞こえてきていた。
「…なりたくないけど、なってあげるよ。遠い戦友を一人でいかせるのは嫌だからね。僕が、『もう自分はそういうものなのだ』と受け入れたとき、それは発現する」
「ふむ、シオンが言っていた、インドで励起させるというパーツかね」
「正確には、僕と僕の船だね。その名はノーチラス。いかなる海、いかなる深海も制覇する希望の船」
フランスの作家、ジュール・ヴェルヌが執筆したSF小説、「海底二万里」「神秘の島」に登場する船長であり科学者、それがキャプテン・ネモだ。
ネモとはラテン語で名無しを意味する言葉でもある。
ラクシュミーが活躍したジャーンシーを中心としたブンデールカンド地方の生まれだったネモは、インド独立のために欧州で学び、インド大反乱で戦うも、妻子を亡くしたショックで研究に没頭し、潜水艦ノーチラス号を完成させる。
そして、ノーチラスによって世界中の反乱勢力を支援する活動を開始するのだ。
「僕の名前はキャプテン・ネモ。海底二万里のネモ船長に、ギリシア神話におけるポセイドンの息子、海の神トリトンを掛け合わせたものだ」
ネモという幻霊の正体は、キャプテン・ネモを核にした上でギリシアの伝承である男の人魚トリトンを掛け合わせたものだった。
トリトンはポセイドンの息子の一人であり、平穏な海や嵐を鎮める力を司る、航海の安全を象徴する存在でもあった。
この力を最大限励起させ、証憑機構という疑似触角をボーダーの先頭に装着することで、ボーダーを擬似的にノーチラスに見立て、その権能を発揮させるということらしい。
「…本当は、この召喚にはおかんむりだったさ。海のない漂白された地球に、生命のいない彷徨海の海。まともな海もない世界に呼び出されるなんてって。どうせ、現代の人間たちの自業自得だろうって。でも、このインドで納得した。君たちは、僕の知る『人間』だ。困難を前にしてへこたれながらも船を造り、無謀にも荒波にこぎ出す旅人だ。どんな窮地、どんな敵と戦おうとも、最後には良かったね、と笑い合える人間だ。それが分かった以上、もう拗ねてはいられない」
ボーダーは光に包まれて、再び前進を開始する。乳白色の海へとまっすぐに、なんの恐れも感じさせずに走り出す。
「だから力を貸そう!船旅の守護者がここに宣言する!今この瞬間において、この船は、すべての嵐を超える万能の船なのだと!嵐の海も、毒の乳海も恐れることはない!さあ行くぞぉ!前進一杯!!」
海を渡るということにおいて、これほどまでに心強い英霊はいないだろう。
乳海に突入したボーダーは、ノーチラスの権能によってその毒をすべて弾き、目の前に聳え立つ空想樹へと直進し始めた。