創世滅亡輪廻ユガ・クシェートラII−16


ついに、空想樹の聳える湖の中島へと上陸した。旧ラムナガー近郊、ネパールにほど近い場所だ。
一面に曼珠沙華の白い花が咲き乱れる様は、不気味なほど美しい。

空はいよいよ赤く染まり、その光が大地をも赤く照らした。空想樹は際限なく熱量を高めており、その前にはアルジュナ・オルタが泰然と立っている。

ラーマは、呪いが限界のところまで来てしまったらしく、宝具ブラフマーストラをカルナに託した。
カルナは元から持つスーリヤの力に加えて、アシュヴァッターマンから借りたシヴァ、ラーマから借りたヴィシュヌの力も部分的に得ている。

それによって、カルナの髪は燃え上がるような深紅に変わり、瞳の色も左右それぞれ赤と金に変わっている。


「凄まじい力だ。シヴァとヴィシュヌ。これが大いなる神の片鱗か…」

「もうものにするとは、さすが余の見込んだ男だ」


ラーマは満足そうに頷いたあと、がくりと力が抜けて曼珠沙華の花畑に膝を着く。ガネーシャが慌てて支えたところに、別の影が空中から現れた。


「そう、か…ふふふ、そう、か!お前も…完璧な神へと、近づいたか!」


アルジュナ・オルタが、獰猛な笑みを浮かべながらこちらを見下ろしている。感情も感慨も消え失せていたこれまでの姿から一変し、人間味のようなものすら感じられた。
それを見て、カルナは槍を構えて向き合う。


「そうだ。そうでなくてはならない。私の前に立ち塞がるお前は、そうでなくては!」

「…?おかしなことを言う」

「な、に?」

「俺もお前も、完璧な神などではない。もし完璧な神であれば、お前はそれほどまでに、俺という名前に拘泥するか?それはまさしく、人間味だぞ」


カルナも同じことを思ったらしい。にやりとして言うと、アルジュナ・オルタは息を飲んで固まる。


「感謝しよう。俺たちが神ではないことに。ここにいるのは、あくまでただの二人の戦士だ」

「貴様…ッ!」

「ン〜!施しの英雄も意外と口が回るようですねぇ。ならば不肖私めが、神の耳を塞ぐ役割を負ってみせましょう」


動揺するアルジュナ・オルタの傍には、やはりリンボが現れる。
まるで悪魔のような破綻した笑みを浮かべて、空想樹とアルジュナ・オルタの両方を見上げた。


「この地の神よ!もしもあなたが足らぬと感じたならば!真なる神の下賜を与えましょうぞ!その名を空想樹スパイラル!!星を書き換える天鵞絨銀幕(テクスチャ)ァ!!」


リンボの言葉とともに、莫大な熱が空想樹から放たれた。慌ててアーサーは唯斗を抱き込んで、マシュは盾で立香を庇う。その熱気だけで肌が焼かれかねない。
その爆風が通り過ぎると、そこには、より大きく開花し黒ずんだ空想樹の姿があった。内側には銀河が見えている。
そして、大量の魔力がアルジュナ・オルタに流れ込んでいた。


「ああ…はは、はははは!これは!初めて神を取り込んだとき以上の…!!」


アルジュナ・オルタは大量の魔力を纏っているが、カルナは一切動じずに淡々と口を開く。


「俺は、いつも一言多いのではなく足りないのだと言われる。なので言っておこう。お前が何らかの理由で、お前の中にいたはずのクリシュナが主体となったならば。お前は自分が気づいていないだけで、自分が不出来だと感じていたものを主体としていることになる。お前は、果たして自らが不出来である可能性を直視したことがあるのか?少なくとも俺の知るアルジュナ、その目だけは確かに持っていたぞ」

「目……ああ、ああ。目だ。お前の、その、目だ」


アルジュナ・オルタはこちらを睥睨する目を険しくすると、膨大な魔力を増幅させる。その風だけで、周囲の曼珠沙華の花びらが一斉に舞い上がった。


「また…その目で私を見るのか…その目で、気づかせようと言うのか…それは罪だ。邪悪だ。私は、お前を、この手で、断罪する!!」

「神であろうがなかろうが関係はない。俺は常に、お前を凌駕したいと思っているだけだ!」

「カルナァアァ!!!」

「アルジュナァアア!!!」


その瞬間、カルナの槍から放たれた太陽光そのもののような熱戦と、アルジュナ・オルタが手元から放ったカラフルな光の弾から炸裂した衝撃波が、二人の中間で激突した。直後、その周囲の地面は昇華し、爆風が辺りに吹きすさんだ。

ここに、マハーバーラタが再現されようとしていた。


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