沈殿する澱み−1
17日間に及ぶインド異聞帯での作戦行動を終えてカルデアベースに戻ってきたときには、9月も後半に差し掛かろうとしていた。
ノウム・カルデアのドックに入港したボーダーは、その日のうちに次の訓練に臨むことになっており、すでにシオンたちは準備を終えている。
その訓練というのも、ゴルドルフやダ・ヴィンチなどカルデアのブレインがいない状態での緊急虚数潜航を想定したもので、シオン曰く、ネモとカルデアの関係性を深める目的もあるとのことだった。
しかし、トリスメギストスIIはこの訓練にあたり、唯斗とアーサーを参加させないよう提案してきた。そして、立香とマシュ、ネモのほか、同行サーヴァントとしてスカディ、項羽、刑部姫をリスト。本当はもう一人、アビーもいたものの、リソース面からダ・ヴィンチが却下し、メンバーが固まる。
いったいなぜこのメンバーなのか、そしてなぜ唯斗が外されたのか、トリスメギストスIIの演算過程は分からないものの、大事を取って、唯斗とアーサーはこの訓練から外れている。
あまりいい予感はしていなかったが、案の定、訓練を終えて戻ってきた立香たちはひどく混乱しており、記憶も曖昧で、さらには新たなサーヴァントとしてゴッホと楊貴妃まで現れるという、いつも通りの大騒動に見舞われたようだ。
立香、そしてゴッホの証言から、カルデアとシオンはボーダーに何が起きたのかをある程度把握する。
まず、フォーリナーというクラスを成立させている、人類が何かしらの因果で接触してしまった領域外の神々が、虚数空間に目をつけて、こちらへの侵攻を企てた。
その神の一人は、ギリシア神話でアポロンに恋してアポロンの浮気相手を殺害し、ひまわりに姿を変えるほどに太陽を見つめ続けた狂気の神霊、クリュティエの霊基に、高名な画家であるヴァン=ゴッホの核と記憶を植え付けて合体させたいびつなサーヴァントを構築。ゴッホを虚数空間に召喚し、ボーダーと接触させた。
ゴッホはカルデアから秘密裏に北斎を呼び寄せており、マリーンズの一人に扮した北斎が虚数空間を大きく書き換え、観測可能な深海に変えてしまう。
一方、ゴッホを操る神と対抗する神は、傾国の美女にして、その死体をフォーリナー降臨用の体として改造されてしまった状態で英霊の座に召し上げられていた楊貴妃を使用。ゴッホや北斎とは別に、フォーリナー・楊貴妃はボーダー内部で暗躍した。
ゴッホも楊貴妃も、ボーダーでの狂気を回収してエネルギーとしていたが、項羽やスカディの支援、そして立香の運命力の前にあえなく敗北。
ゴッホは虚数空間で巨大化して霊基そのものを神の降臨用の神殿に変えようとしていたが、ネモと立香の呼びかけで神を振り払い、カルデアに与した。
楊貴妃も最後に掻っ攫おうとして、そのポンコツさが仇となって敗北。頼光による霊基への制限によって表層人格を固定され、フォーリナーとしての悪質な側面はほとんどが封印されている。
一時はカルデアのフォーリナーたちをも巻き込んで、虚数大海戦・フォーリナー祭りが開催されてしまうところだったが、なんとか立香はそれを制して帰還したのだという。
ゴッホはそのまま虚数空間で消えるはずだったが、なぜかボーダーに絡まってしまい、ボーダーとともにカルデアにやってきた。
同じくカルデアにやってきたものの記憶がない楊貴妃とともに、ダ・ヴィンチたちの精密検査をいくつもクリアし、ようやくカルデアのサーヴァントとして登録を許された形だ。