沈殿する澱み−2
立香たちの帰還から二日後、唯斗はリソース回収のための微小特異点へのレイシフトを行うため、ガウェインとラウンジで打ち合わせをしていた。
レイシフト自体は翌日だったが、前のカルデアとレイシフトの在り方も少し異なるため、その説明を兼ねた簡単なものだ。
打ち合わせ自体はすぐに終わり、雑談状態になっていると、二人以外誰もいないラウンジに別の声が響く。
「あぁ、ここにいらしたんですね」
「え…っと、ゴッホか?」
廊下と特に壁があるわけでもない開かれたラウンジに、他のサーヴァントがやってくること自体は何もおかしくなどないが、その姿に唯斗は少し戸惑う。
それはゴッホだったが、初めて会ったときと姿が異なっている。肌は青くなっており、身長もやや伸びている。全体的に大人っぽくなったような形だ。クラゲのような揺らめく傘を頭上に浮かべた姿は、フォーリナーというクラスだけあって、この世のものとは思えない。
もともとが人類に徒なす存在であるフォーリナーだ、ガウェインはやや警戒しているものの、まったくおくびにも出さない。笑顔でゴッホを迎えた。
「おや、新しくやってきた方ですね。非常に高名な近代の画家でいらっしゃるとか」
「はう…太陽の騎士さま…へへ、あのアーサー王伝説の騎士の方にまで仰っていただけるなんて…」
「それで、どうされました?マスターに御用事でしょうか」
「はい…えへ、その、唯斗様とお話ししてみたくて…つい…マスター様にお許しをいただいて…こちらの霊基の方が、いくらか開放的で、話しかけやすいといいますか…」
どうやらゴッホは唯斗と話したかったらしく、霊基を少し変えて、精神的にいくらか勇気を出せる方になってまでここへやってきたらしい。
「なんでまた、俺とそんなんしてまで…」
「太陽の騎士、ガウェイン様…太陽王、ラムセス2世…オジマンディアス様……そしてアーサー王…そんな方々を従え、フランス育ちでもいらっしゃると聞き…えへへ、コンコルド広場のオベリスク…ゴッホもよく知っています…唯斗様はブルターニュの方だそうですが…」
「そうだな、ゴッホは確か、南フランスとイル=ド=フランスにいたんだよな。ブルターニュは、あんまりあなたの好みじゃない、陰鬱なところあるか」
「いえ…まぁ、むしろゴッホという存在は…ブルターニュこそ相応しかったのかもしれませんが…」
ゴッホはへら、と笑ってから、ちらりとガウェインを見上げる。キョトンとしたガウェインを見てから、唯斗に視線を移し、そして、おもむろにニタァと笑った。
「あの…実はさきほど、過去のカルデアの旅の記録を閲覧し終えまして…ずっと、お聞きしたかったんです…まさかちょうど、ガウェイン様もおられるなんて…ふふ、第六特異点で、ガウェイン様と戦ったとき…唯斗様は…その、どのような心境だったのでしょう…?」
表情と、押し殺したような声音で尋ねるには相応しくないような質問だ。困惑しつつも、唯斗は第六特異点でのガウェインとの戦いを振り返る。本当はガウェインがいない方がいいのだろうが、フォーリナーと二人きりにするようなことを、ガウェインは選ばないだろう。
「…グランドオーダーの最初の頃、俺は、いざとなったら立香の代わりに死んででも立香を生かすつもりだったんだ。俺にはそもそも、生きてる価値も目的も理由もなかった、いや、ないと思ってたから。第六特異点の頃には、そういう意識もだいぶ薄れてたけど…いざそのときになって、やっぱり、俺が死ぬべきだと思った。それでも、ただ死ぬよりは、一矢報いたくて…それで、自分の負傷を何倍にもして相手にも負わせる魔術で挑んだ」
「…怖かった、ですか……?」
「あんまり感情は動かなかったかな。必死だったし。ただ…最後に、アーサーに会いたい、って、死にたくないって、そう思った」
ガウェインは、特異点の自分とはいえ、そのようなことがあったのを今でも気にしている節がある。特に、第六特異点から帰還したあと、ガウェインのことを巡って一波乱あったのもあって、ガウェインはことさら唯斗に対して過保護なきらいがある。
ゴッホは唯斗の話を聞き、なぜか微笑む。
「…いいなぁ……」
「…えっ、」
続いて出てきた羨望の言葉に、つい唯斗は聞き返そうとしたが、それより前に、ゴッホは恍惚とした表情を浮かべた。
「最高に痛い方法で死ねるなんて…しかも、その死が有意義で、マスター様のためになるなんて…いいなぁ…!えへへ、ゴッホも、そんな痛い戦い方がしたい…!」
「っ、」
「唯斗様、どのような痛みでしたか!?もう一振りの聖剣の炎に生きたまま焼かれる、その痛みは、どんな苦しみでしたか!?可能な限り具体的に、なるべく追体験ができるくらい詳細に教えてくださいませんか!?!?」
ぞっとして、唯斗は思わず椅子から立ち上がって距離を置こうとしてしまう。ゴッホもこちらに距離を詰めようとしたが、先に唯斗の前にガウェインが立ちはだかった。