回顧−6
「…意外だな。このむちゃくちゃな訓練に、お前も真面目に付き合っていたのか」
その一言で、デイビットがすべてを理解したことが分かり、唯斗は薄ら寒く感じる。
この訓練が他のマスター候補たちを黙らせるための見せしめであり、その上で唯斗は参加している。一方で、真面目に戦うならキリシュタリアたちを使うことでデイビットたちの動きを制限する必要があるため、ヒナコを人質にとるのは合理的な手段であり、そこまで唯斗がしたことに意外だと感じた。
これがデイビットの意味するところだ。今の一瞬でそこまで理解したのだ、まさに異常な人物である。
「…まぁな。それでどうする?芥ヒナコをここで切り捨てて俺を殺すか?」
「なるほどな、素の身体能力で人を殺せる俺とデイビットをどうにかするために、わざわざキリシュタリアたちを使ったってわけか。そんで、その手段として人質をとったと。結構やるじゃねぇの!」
ベリルも唯斗の言葉で理解したらしく、楽しげに笑う。それがどうも邪悪に見えてしまい、唯斗は目を逸らした。
ベリルはカドックや唯斗に対して兄貴分を気取りたいらしく、何かと構ってくることが多かったが、ベリルは唯斗に対して過去にはっきりと「お前みたいに可哀想なヤツが好きなもんでな」と言ったのだ。こいつは頭がおかしいタイプのヤツだとすぐに理解した。
「…素の身体能力で殺せるのはお前ら二人だけじゃなくペペロンチーノもそうだろ。つか、この状況で俺だけを殺せるのはペペロンチーノの方がむしろ適任じゃねぇの」
「適任なんてひどい、私だってあなたに情があるんだから、躊躇いはあるわよぉ。それに、ヒナコちゃんもただでは済まないし」
躊躇いはあるができないとは言わないのがペペロンチーノだ。本当にAチームのメンバーはおかしいヤツが多すぎる。その中で最もまともなのはカドックだけだ。
すると、ベリルが口を開く。
「ま、実際にこういう状況になっちまったら、仲間を切ることも必要だよなァ。むしろそのための俺やペペだ。つーわけで、あばよ」
ベリルはにこやかにそう言うと、一瞬でこちらに迫った。魔術の強化などはかけていない、本当に素の身体能力によるものだ。
唯斗は結界で弾いてから、至近距離で大量の魔力を籠めたガンドを放った。直撃したベリルは軽く飛ばされるが、その衝撃をいなして宙返りをしながら着地する。
「…ハッ、相変わらずガンドの意味を考えさせられる威力だなぁオイ」
「最大出力、見てくか?」
唯斗はそう言うと、さらに残りの魔力すべてを指先に集める。気づいたデイビットとペペロンチーノがすぐに動く。
「やられた!」
ペペロンチーノはそう口にして、デイビットも珍しく焦ったように動いたが、もう遅い。
「俺の勝利条件は設定されてない、つまり、俺は死んでもいいってわけだ」
Aチームの勝利条件は唯斗の無力化。一方の唯斗はサンドバッグ役でしかないため、勝利条件はない。それならば、道連れにして自爆することも手段となりうる。
ガンドはガンドというシングルアクションの魔術には耐えきれない魔力を注がれたことで破綻して、術式は暴走する。
そして、周囲一帯を巻き込んで唯斗の莫大な魔力は大爆発を起こした。
そこで意識がブラックアウトするのと同時に、ふっと意識は浮き上がって、シミュレーションコフィンが開くのが見えた。
同時に、Aチーム全員のコフィンも開く。つまり、唯斗を含む全員が「死亡」とシミュレーションされたことで、意識が排出されて覚醒したのである。
五感も戻ったところで、やかましいペペロンチーノの声が聞こえてきた。