回顧−7
「んもー!最後の最後にしてやられたわ。見知った相手ってのもあったけど、油断ね。不覚だったわ!」
「ほんっとそれだな。やるじゃねぇの唯斗〜!」
悔しそうな言葉のわりに悔しさは微塵もないペペロンチーノ、同じくニタリと笑うベリル。コフィンを出てすぐにその二人に近づかれ、唯斗はつい後ずさってしまう。
すると、背中が逞しい体に当たった。振り返ると、デイビットが不思議そうに見下ろしている。
「?どうした?」
「あ…いや、悪い」
すぐに離れた唯斗だったが、唯斗が圧の強いペペロンチーノとベリルから無意識に離れたのだと理解したのか、デイビットは「その辺にしてやれ」と一声かけてくれた。
そうしてくれるとは思わず、今度はこちらが不思議に思って見上げてしまう。
唯斗の視線に気づいたデイビットは、特に表情も変えずにこちらの暗黙の疑問に答える。
「侮っていたわけではないが、俺と同じく時計塔を追放されている身であるにも関わらず、特に努力するでもない姿勢のお前に関心を持っていなかった。そのわりに、今回こうして奮戦したことで評価が変わった」
「そうか。まぁ、やらなきゃいけない理由が今回はあったってだけだ。別に改める必要はない」
「ならそうしておこう。もし一緒に戦うことになったらまた注視する」
「やだもォ〜!AIスピーカー同士の会話じゃないのォ〜!」
「ぶはっ!」
デイビットと唯斗の会話にペペロンチーノがそう指摘すると、ベリルが噴き出した。
そこに、離れた位置のコフィンから出てきたキリシュタリアたちもやってきた。
「私も君の見方が変わったよ、唯斗。優秀な魔術回路に反して無気力な君を残念に思っていたが、やるときはやると分かって嬉しい。君がその力を発揮することを、所長も…恐らく前所長もご存命だったなら望んでいるはずだ」
キリシュタリアの言葉に、それはさすがに高評価すぎる、と唯斗は呆れる。世辞にしか聞こえないのに、キリシュタリアの言葉であるというだけで真実になってしまいかねない。
「アニムスフィアのロードがそんな殊勝なこと望むわけないだろ」
「いいや。前所長はAチーム選抜の折に、本当はグロスヴァレと雨宮家のサラブレッドである君にも注目していた。過去の一件、禁忌とはいえ、英霊召喚を軸とする今回の作戦においては有利なことでもあったからね。ただ、君が魔術協会から距離を置いていることも知っていたから、声をかけなかったそうだ」
「……、買いかぶりだ。つか、ただの家柄だけの話だろ。俺みたいな無気力な人間を評価するなんざ、努力してるヤツらにあまりに失礼だ」
唯斗はそれだけ言うとシミュレータールームを出ようとしたが、それより先にオルガマリーが入ってきた。
そういえば、今回の訓練の目的は唯斗がサンドバッグになることでマスター候補たちの溜飲を下げるという趣旨だった。それを果たせていない。しかし、オルガマリーは怒った様子はなかった。
「模擬戦闘お疲れ様。当初の予定とは違う結果になりましたが、良い結果でしょう。人質を取られた場合や相手が自爆を図った場合の対策が不十分であった事実が露呈しました。礼装への術式を技術部に再検討させます。それに、もしかするとあなたの実力を認めてAチーム入りしても問題ないかもしれないわ。このまま行けば、あるいは…なので今回の結果はこれはこれで良しとします」
「…あ、そ。じゃあ、訓練終了でいいなら俺は部屋に戻る」
「どうぞ」
唯斗はオルガマリーの横を抜けて、今度こそシミュレータールームを後にした。
Aチームへの配置転換などまっぴら御免だ。とっととこの作戦を終了してもらい、唯斗は特に何もやることもないまま日本に帰国する、これが最善のシナリオなのだから。