沈殿する澱み−11


インドから帰還して、1ヶ月近くが経った頃。
10月も後半になったとき、立香がなぜか強制的にレイシフトさせられるという事件が発生した。コフィンも使わずに、なんならカルデアのリソースすら使わずに、特異点側から引っ張られるようにしてレイシフトさせられたのだという。

同様の事件は過去にもあった。夢を通して引きずり込まれた下総もそうだし、先日は邪竜ファヴニールのような異世界の竜に呼ばれて、異世界の聖杯大戦の残滓に巻き込まれたこともあった。
ただ、それはいずれも夢を通したものであり、体ごとというのはあまり例がない。

解析した結果、行き先はなんと古代の日本。場所は不定だが、邪馬台国ではないかとのことだった。

その推測は正しかったようで、戻ってきた立香曰く、「なんか闇の新撰組が率いる織田信長を模したでかい埴輪が邪馬台国を滅ぼそうとしてたんだよね〜」ということがあったらしく、唯斗の頭が久しぶりに理解を拒絶する意味の分からない特異点だったようだ。
最後には、ダ・ヴィンチが現地にもたらした異常な稲によって邪馬台国が逆に再度特異点になろうとしていたため、立香は再び特異点に戻って盛大に稲刈りをして戻ってきた。

最終的に、卑弥呼と斎藤一が新たにサーヴァントとしてカルデアにやってきただけでなく、織田信勝もサーヴァントとしての霊基を得て、一件落着となったらしい。

食堂で早速、新撰組や日本史サーヴァントたちに囲まれている卑弥呼と斎藤一を遠目に見つつ、唯斗はアーサーとアルジュナ・オルタとともにカウンターに向かう。
沖田、土方もどこか嬉しそうで、信長と信勝も仲よさそうにしている。茶々や長可、景虎はマイペースに過ごしているし、以蔵と龍馬もいるようだ。

あのメンバーは、唯斗にはあまり関わりがない者たちであることもあり、立香のように飛び込むことはするつもりはない。

ただ、唯斗の視線に気づいたアーサーは首をかしげた。


「行かなくていいのかい?」

「…え」

「話したそうにしているけれど…違ったかな?」

「あー…や、うん、話したい、のはそうだけど…ほら、新撰組のサーヴァントっていいな、ってちょっと羨ましくて。俺は縁がないけど、斎藤一とかやっぱ、日本人的には刺さるものがあるというか…」

「確かに、日本のサーヴァントは、エミヤ殿を除けば森殿だけだね」

「あぁ。だから、いつか話せたらいいな」


斎藤一はへらへらと笑ってつつがなくコミュニケーションをしているようだし、癖はあるだろうが、ちょっとした挨拶程度ならまったく問題なさそうに見える。それなら、唯斗も挨拶くらいはしておきたい。

そう思っていたが、意外にも新撰組サーヴァントはカルデア内ですれ違うことがなく、唯斗もアルジュナ・オルタと他のサーヴァントたちとの連携を確認する訓練で忙しかったこともあり、いつしかまた1ヶ月程度が経過してしまっていた。

そして、ついにその日がやってくる。

11月後半、この日もアルジュナ・オルタとの訓練を終えて、唯斗は二人でシミュレーター用のコフィンから出て結果について協議していた。
様々な計測値から、二人で戦い方やリソース配分などを検討していると、扉が開いて誰かが入ってくる。

珍しく、アルジュナ・オルタから先に振り返ったため、誰かと思って唯斗もモニターから目を離して扉を振り向くと、すらりとした長身のスーツ姿が立っていた。


「あれ、斎藤一…?」

「こうやってちゃんと喋るのははじめましてだな、もう一人のマスターちゃん。えっと、唯斗君、だったかな?」

「あ、あぁ、不躾に悪い。挨拶できてなくて悪いな、えっと、斎藤さん…?」


なんとなく、日本の人名は名字にさん付けをしたくなってしまう。呼び捨てが当たり前なのは外国人とのときだけで、日本人同士となると、途端にそういう感覚が戻ってきてしまうのだ。
特に土方のような雰囲気のある人物はついさん付けになってしまうし、斎藤はそのタイプだった。


「マスターちゃんってば、僕のこと一ちゃんって呼ぶからさ。なんか逆に新鮮だわ」


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