沈殿する澱み−14
時間の流れとは実に早いもので、カルデアの襲撃から約1年が経とうとしている12月。
ここのところ、唯斗は異聞帯の人々の呪詛を聞かされる悪夢を見るペースが週に1回程度に頻度が増えていたが、一方でそれを明晰夢として自覚する感覚も身につけたため、夢を夢としてそのまま感情を殺して耐えていれば、いつの間にか深い眠りに落ちるようになっていた。
夢を見ている間の気分こそ最悪だが、起きてしまえばいつも通りだ。忘れているわけではないものの、意識に上ることもない。
こういうこともあるだろう、と、異聞帯の厳しい戦いから当然の反応として流しつつ、唯斗は別の問題を抱えていた。
本人曰く今年のサンタだというカルナが、霊基をセイバー(本人の言ではクラス・ボクサー)に変えてまでサンタクロース役になっており、カルデアの人々に欲しいものを聞いて回っていた。
英霊たちの中には、欲しいものはないと答える者も多くいて、それは彼らの在り方だとカルナも気にせず受け入れていたようだったが、唯斗も同じく「特にない」と答えたところ、ひどく困らせてしまった。
どうやら、人間、特にマスター二人はカルナにとって最優先でプレゼントを配るべき相手であるらしく、唯斗とカルナ、二人揃って沈黙してしまう極めて気まずい時間があった。
耐えかねて、唯斗は考えておくと言って時間をもらい、今は立香に相談に乗ってもらうべく廊下を歩いているところだ。
クリスマスプレゼント。今までもサンタクロース担当は何人かいたが、唯斗はプレゼントを不要だと返してきた。唯一、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィのときは、幼い見た目もあって、適当な本を頼んだ覚えがある。
しかし、今は紫式部による大図書館があるため、本という答えではカルナは納得しないだろう。
毎度トナカイ役と言ってサンタサーヴァントのサポートをしている立香ならば、唯斗にも適切な答えをくれるだろうと思って立香の部屋を訪ねる。
「立香、いるか」
「ちょっと待って〜」
インターホンを鳴らして呼びかけると、すぐに立香が出てきた。ラフな部屋着を着ている。今日はオフのため当然だが、Tシャツにジャージという服装はよそ行きのものではなく、今日は本当に誰とも予定を入れていないようだ。
「どうしたの?」
「…ちょっと話があってな」
「あれ、結構真面目な話?」
「や、大したことじゃない。クリスマスのことで」
「あー、察した。入って」
恐らく立香は、この部屋に潜んでいる清姫あたりを配慮して場所を変える必要があるか確かめてくれた。そんな話ではないため、唯斗はそのまま立香の部屋に入って、壁に備え付けられたテーブルの椅子に腰掛け、立香はベッドに胡座をかく。
「カルナさんにもう会ったんだ?」
「あぁ。プレゼント何がいいか聞かれて、ぶっちゃけ欲しいものがまったくなかったから困ってたんだ。ほら、他のヤツがサンタのときは、そう答えても気にしないでいてくれたけど、あいつ真面目だから」
「なるほどね、どういう状況だったか察したよ。実は俺もさ、かれこれ3回目だから結構困ってたんだよね。それで、前回からもうネタがなかったから、こう、『普通の男の子が欲しいと思いそうで、かつ英霊でも手に入れられるもの』としてそれっぽいものをチョイスしてたんだ。今年もそんな感じで、超精密ボーダープラモデルにした」
その言葉に、一瞬唯斗は時が止まる。なんでもないように話す立香だが、まさか立香まで欲しいものがないとは知らなかった。
欲しいものがあるわけでないのに、そう周りに感じさせないようにしているということだ。本人はそれを大したことだとは思っていないし、事実、高校生、あるいは大学生くらいの年齢ともなれば、プレゼントとして欲しいもの、というのはあまりないだろう。
いや、欲しいものがあったとしても、それはこんなカルデアという状況で欲するような類いのものではない。
本来なら欲しいと思っていたであろう年相応のものは、いずれもこんな異常な空間では手に入れられないか、手に入っても価値のないものだ。普通の日常社会があって初めて価値を持つものこそが、きっと立香が本来欲しいものなのである。
それを願うわけにもいかないから、欲しいものが浮かばず、結局、「それっぽいもの」に落ち着いている。