沈殿する澱み−17


翌日、唯斗はアルジュナの頼み通り、立香たちとともに特異点へのレイシフトを行った。ヴリトラが作り出した閉塞特異点という特殊なもので、空間内部は外界と完全に遮断されている。

これまでの経験からも、決して厳しい戦闘が予想されるものではないということで、アーサーは伴わず、いつもの小特異点の探索の要領でアルジュナ・オルタとともにやってきた。

今回のメンバーは、立香とカルナ、ゲオルギウスに加え、この前の立香の夢における疑似レイシフトで縁を結んだジークもいる。
どちらかと言えば、竜そのものである彼は倒される側ではないかと思うが、サーヴァントになる前、聖杯大戦なるものでジークフリートの権能を部分的に得ていて、それによって竜殺し枠になっているようだった。
天草やアキレウス、アタランテなども参加したという聖杯大戦を、立香は部分的に体験してきたそうで、ジークとも親しそうにしている。

唯斗はアルジュナ・オルタだけが帯同サーヴァントだが、こうやって実際にレイシフトを行うのは初めてだ。

凍てついた氷の川を歩いて川上方向へと歩いていると、ダ・ヴィンチは通信で危険がないことを告げながら、これを機にと質問してくる。


『ところで、あえて口にするのもどうかと思うけど、危機管理の観点から言わせてもらうよ。ええと、そこにいるカルナのことはどう思っているんだい?実のところ、我々はまだ、アルジュナ・オルタ君の内面や立場について完全に理解しているとは言いがたいからね。唯斗君とは良好な関係のようだから、危険視まではしていないけれど』


唯斗も、まだインドのサーヴァントたちに関して質問をしたことはなかった。アルジュナ・オルタからの質問の方が圧倒的に多かったからというのもあるが、そのあたりは彼ら自身で折り合えばいい。唯斗はそこまで干渉するつもりはなかったものの、一応、管制室側では大事を取ることにしたようだ。


「カルナ…今の私にとっては、人であった頃の事象は、すべてが曖昧模糊な記憶の彼方。今の私にはもはや、意味のないものですが…しかし、ええ、確かに感じるものはあります。言葉にはできないものの、確かに。けれど今は、その神奇な感覚も無用なもの。私はマスターとともに悪を見定め裁くのみです」

『やっぱり、アーチャーのアルジュナさんとは少し異なるスタンスのようですね。カルナさんはどうですか?』


今回は留守番をしているマシュからも通信で尋ねられる。カルナは少し考える素振りを見せてから、フード越しにこちらを振り返る。


「ここにいる俺はお前のことをよくは知らない。だがアシュヴァッターマンが言うには、別側面といえどアルジュナであることには変わりないと。ならば、俺も同じようにするまで。かつて同じ師とともに学んだお前であるというのなら…」


カルナはそう言って、自身の顔の前に拳を持ち上げる。
拳を向けられたアルジュナ・オルタはきょとんとする。


「懐かしき者と再会したとき。共に戦うとき、あるいは戦いを終えたとき。こうするのだそうだ。敵味方の概念すら超越する、戦う男同士の挨拶だと俺は解釈している」

「そうですか。では…」


アルジュナ・オルタは素直にカルナと拳を付き合わせた。ボクサーだからか、こういうノリをするらしい。唯斗は、この光景をアルジュナが見たら卒倒するのではないかと思ったが、すでにアルジュナともやっているらしい。心中お察しである。


「ふむ…未知の情報、未知の感覚ですね。記憶領域にしっかり保存しておきます」


カルナの天然の煽りにアルジュナが青筋を立てる、そんなやりとりに慣れている唯斗としては、異様な光景にしか見えない。だがこれはこれで、決して悪いことではないだろう。


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