沈殿する澱み−19
「ちょ、それにしてもゆっくり食べるべきだ。そんなにひょいぱくひょいぱく食べていたら、サーヴァントといえど口の中を火傷しないか?ほら、スプーンを口の前で止めてふーふーするんだ」
「…ふー、ふー……」
ジークに言われたとおりに、スプーンをいったん止めて冷ましてから口に運ぶ様子は、完璧主義のきらいのあるアルジュナからは考えられない。ただ、そういうところはこれまでも何度か見てきたため、唯斗はどちらかというと、ジークの面倒見の良さの方が気になった。
「ジークって、結構面倒見がいいんだな。アストルフォの扱いもそうだし」
「そ、そうだろうか…」
「唯斗が言うなら間違いないよ、面倒見られるプロだもん。面倒見の良いサーヴァントはみんな唯斗にドキッとしてるからね」
「立香?」
右側に座る立香の体にどす、と横肘を入れてやれば、立香はけらけらと笑った。ジークはそれを見て困惑する。
「そうなのか…?唯斗はとても、しっかりしているように見えるが…」
「その認識で間違いないぞジーク」
「え〜?でもこの前、ロビンとサンソン先生に甲斐甲斐しく世話焼かれてたじゃん、ほら、疲れて動けないって言って、ご飯とかお菓子とかお茶とか用意してもらって、タオルケット代わりにマントも借りてさ」
「うぐ…あれは…あいつらが勝手に……」
立香に痛いところを突かれて途端に口ごもる。立香はニヤニヤとしていて、ここは弁解の一つでもしておこうとなんとか口を開く。
「…別に、マジで動けなかったとかじゃなくて、なんかこう、許されてる感じが…その…」
「なるほどね、なんでもお願い聞いてくれるのが許されてる感じがしてつい甘えちゃうわけだ。可愛いなぁ〜」
「はっ倒すぞ」
まったく弁解にならなかったどころか恥の上塗りである。しどろもどろとする唯斗に、ジークは少し呆れたようにしながらも表情を緩めた。
「仲がいいんだな、マスターと唯斗は。俺はあまり唯斗とは一緒になったことがないから新鮮だが、意外と親しみやすいというか、アキレウスや天草に構われるのも分かる気がする」
「マジな評論されると居たたまれねぇ…」
唯斗は呻きつつも、とりあえず食べ終えた皿をゲオルギウスに返す。立香をはじめ全員すでに食べ終えていて、カルナとゲオルギウスも雑談に興じていたようだ。
ふと、アルジュナ・オルタがぴくりとする。川の上流の方を見つめていた。
「どうした?」
「…何かが、来ます」
アルジュナ・オルタがそう言った途端、前方から突如として衝撃波が迫ってきた。縦に川を切り裂きながら猛烈な勢いでやってくる。
ゲオルギウスは立香を、アルジュナ・オルタは唯斗を連れて避ける。
「うわっ、」
アルジュナ・オルタは唯斗をひょいっと持ち上げて抱き込むと、そのまま空中を浮遊して衝撃波を避けた。
唯斗が体制を維持しやすいよう、アルジュナ・オルタは上体を少し後ろに倒して体に凭れさせてくれている。その腕によって体を支えられているが、少し不安定なため、慌ててアルジュナ・オルタの体に縋った。
「マスター、しばらく私の腕の中に」
「あ、あぁ…」
アルジュナ・オルタはそう言って、空中で軽く胡座をかくようにして唯斗を座らせて、自身の上体に凭れさせる。まるで浮遊する椅子に座っているかのような状態だ。
シートベルトのように浅黒い腕に抱き締められていると、アルジュナ・オルタはまたも迫る衝撃波を睨み付ける。
「マスターを死に至らしめる可能性を持つ攻撃は、悪…」
「ちょっと待て、迎撃はまだだ。足場は回復してる、このまま避けながら進めばいい。ここで一発かますと、全員足場をなくして危険だ」
「…分かりました。今は、善を守るのみ。この根幹を、断たなければ…」
悪を断つのと同時に善を守る、そういう考え方をしているアルジュナ・オルタに、唯斗は少し驚いた。善悪の基準に唯斗を置いていたのは知っていたが、善を守ろうとするのは初めて見る。
ぐっと力を籠めて唯斗を抱き締める腕はその意志を如実に示していた。