沈殿する澱み−20
その後、ヴリトラがカルデアの英霊からコピーして生み出した存在としてのエリザベートとの戦闘を経て、次の特異点にも同行したものの、そこではヴリトラにまったく歯が立たなかった。
かろうじて、アルジュナが通信でヴリトラを論破してくれたことで逃げ延びることはできたが、帰還してから、カルナは思い詰めた様子だった。
最後の特異点はヒマラヤ山脈にあるようで、そこでの最終決戦が予定されている。閉塞特異点ではないため、同行サーヴァントは増やせるが、あれは火力を増やせばいいものではないだろう。
恐らく、ヴリトラという概念に対しての攻撃が必要だ。基本的には、神話をなぞる、という形が考えられる。
それを唯斗が言うことは簡単だったが、アルジュナには、「なるべくヤツの好きにさせてください」と遠回しに手助けは不要だと言われてしまった。彼には彼なりの意図がある。オルタの方を同行させているのもそれによるはずだ。
アルジュナの意図までは唯斗も理解していないものの、特にだからといって断ることでもない。ただ、特異点である以上、汎人類史を取り戻した後の障害とならないように修復する必要があるのは確かで、そのためには、カルナやアルジュナのことよりも優先するつもりでいた。
しかし、レイシフトを前にカルナに呼ばれ、唯斗とアルジュナ・オルタは管制室にやってきた。すでにダ・ヴィンチとマシュ、立香、カルナ、ゲオルギウスも揃っている。
遅れたかと思ったが時間通りだ。カルナも咎めることはなく、唯斗の到着に口を開いた。
「俺は考えを改めた。真のサンタになるという目的は変わらないが、そのために必要なものがあれば遠慮はしない。プレゼントと配るだけではなく、他者からのプレゼントも否定しない」
カルナはこの旅で、サンタである自分こそが解決しなければならないと孤軍奮闘を自らしようとしている節があった。恐らく、施しの英雄たる性質が、サンタクロースという役割によって強くなっているのだろう。
それを改めて、仲間を頼る、ということを意識するようになったらしい。
「俺はヴリトラに勝ちたい。そのために力を貸して欲しい」
「もちろんだとも。そのために私たちがいるのさ。次なるドラゴンスレイヤーの助っ人をお望みかな。いつでも声をかける準備はできているよ」
ダ・ヴィンチはジークフリートあたりかと見当をつけるが、唯斗はカルナが無事、アルジュナや唯斗と同じ結論に至ったのだと理解する。
「いや、竜殺しじゃない。そうだろ、カルナ」
「あぁ。やはりお前は分かっているか。大方、アルジュナに口止めもされたかもしれんな」
「…まぁ、否定しないけど。なんにせよ、特異点の修復が最重要課題だ、これでもなお火力で行こうとしてたら俺が出しゃばる用意はしてたよ」
「カルデアのマスターとしてそれが正しいだろう。だが幸い、お前と同じ結論に至れた。ダ・ヴィンチ、アンデルセンとシェヘラザードを呼んでくれ」
カルナはふっと微笑んでから、その2騎を指名した。ダ・ヴィンチもマシュも首をかしげている。戦い向きではないキャスターだ、聖杯を持つ蛇の神相手に戦うサーヴァントではない。
立香もその編成に不思議そうにしている。マスターは立香だ、少なくとも立香は理解してなければならない。
「どうしてその二人なの?」
「神話の再現だ。俺もすっかり忘れていたが、アルジュナはこれを理解していたのだろうな。神性の高いものに対しては、神話と同じことをするのが一番魔術的に効果がある」
「ヴリトラは複数のサンスクリットの原典を持つけど、特にマハーバーラタでは、『木、岩、武器、乾いた物、湿った物、ヴァジュラのいずれによっても傷つかず、インドラは昼も夜も自分を殺すことができない』っていう性質を得るんだ。そこでインドラは、海の泡を使って明け方にヴリトラを倒した」
カルナ、唯斗の説明に、立香もダ・ヴィンチも納得したようにする。
ヴリトラは何度もインドラたちの前に立ちはだかり、干ばつを起こしてインド文明を苦しめてきた。その中でインドラは、金剛杵(ヴァジュラ)を使っても倒せなかったため、明け方に、濡れても渇いてもいない泡にヴィシュヌを入り込ませることで倒したとされる。
神話を再現することは、魔術的に極めて重要な意味を持つことになる。あのヴリトラを倒すにはそれしかないだろう。
だからこそ、その物語に泡を含むアンデルセンとシェヘラザードが抜擢されたわけだ。
渋る二人を強引に連れて、いよいよヴリトラの待つヒマラヤ山脈へとレイシフトを行う。唯斗は途中からの参加となったクリスマスの旅だが、アルジュナ・オルタはつつがなく戦闘に参加できており、良い実戦経験になっただろう。