閻魔亭繁盛記−2
なんと、シオンは温泉旅行レイシフトという新年のプレゼントを贈ってくれるらしい。
激戦が予想される大西洋異聞帯への突入を前に、ちょっとした慰安旅行として用意してくれたようだ。
同行サーヴァントは、日本勢ということで玉藻の前、清姫、巴御前に加え、なぜかフィン・マックールとセイバーのディルムッドが選出された。
セイバーのディルムッドは、以前、シミュレーター内部に発生したバグのような現象で現れたディルムッドの思念の残滓のようなもので、ランサーのディルムッドが霊基を一時的に貸してやることで、カルデア剣豪勝負を行い、満足して退去していった英霊だ。
その後、正規召喚できるようになったことでカルデアにやってきて、唯斗のディルムッドとは異なる霊基として、立香のサーヴァントになっている。
唯斗にはいつも通りアーサーをつけてレイシフトを行うことになったが、今回はなんと、レイシフト適正があるということでゴルドルフも対象となっている。
同行者が多いのは、護衛役ということだ。
その場でレイシフトを行うことになり、唯斗はアーサーを呼び出してそのまま一緒にコフィンに向かう。
すると、唯斗にディルムッドが話しかけてきた。
「唯斗殿」
「ん、どうしたディルムッド」
「私はランサーの私から霊基を借り受けたことがカルデア召喚の縁となったため、ランサーの私の記憶も部分的に有しています。そして、彼があなたに抱いている想いも」
「えっ」
コフィンへの通路で話すにはとんでもない事実である。ランサーのディルムッドよりも華美な服装であるだけでなく、その双剣も見慣れないもので、顔立ちは同じなのに別人だとはっきり分かる。
しかし、その記憶にはランサーとしてのものも混ざっているらしい。
「我が主は立香です、それは変わりません。しかし、あなたのことも等しく守る対象です。ええ、セイバーとして、そこの男の騎士王よりもあなたをお守りすることも吝かではありませんとも」
「…ほう?セイバーのディルムッド殿は随分とアグレッシブなようだ」
アーサーは冷えた声で牽制するが、ディルムッドは気にしていない。聞いていたフィンは呆れたようにため息をついた。
「すまないね騎士王。こちらのディルムッドは、些か果敢に過ぎるところがあるようだ。若気の至りと許してやって欲しい」
「…まぁ、いいだろう。なんであれマスターの心は私がすでにもらい受けたもの。その事実に変わりはない」
「はは、とはいえ、私もあなたも心が移ろわれてしまった身なわけだがね」
「お戯れを、我が王…!」
フィンの非常に笑いづらいジョークに、ディルムッドは顔を引き攣らせる。アーサーの纏う空気もさらに冷えてしまった。ランスロットがこの場にいれば立ったまま気絶していただろう。
これから慰安旅行に行く雰囲気ではないため、仕方なく、唯斗はアーサーの腕をそっと掴む。
「ほら行くぞアーサー…二人部屋だろ、取るの」
「マスター…あぁ、そうだね」
アーサーは途端に機嫌を直して、唯斗の腰に手を添えて歩き始める。だいぶ恥ずかしいことを言ってしまったが、ルルハワでもラスベガスでもそうだったのだ、今回もそうだろう。
そうして、もうすっかり慣れたノウム・カルデアでのレイシフトが始まる。慰安旅行は楽しみといえば楽しみだが、それこそルルハワにしてもラスベガスにしても、一筋縄ではいかなかったため、今回も何か一悶着あるかもしれない。
あまり期待しないようにしながら、唯斗はコフィンに入り、目を閉じた。