閻魔亭繁盛記−4


とりあえず雀に案内され旅館の奥へと向かうと、立香とマシュがいた。二人とも、旅館のものだという赤を基調とした作務衣を着て働いていた。初日だというのに手際がいいのは、ウルクでの経験によるものか。


「あ、唯斗!よかった、合流できたんだね」

「やはり通信機を各自に持ってレイシフトするべきでしたね…」


立香とマシュはこちらに気づいて廊下を駆けてくる。マシュの言う通り、今回は通信機をゴルドルフだけが所持していたため、通信できていない状態だ。慰安旅行だからということだったが、些か油断しすぎてしまった。


「事情は聞いた。感謝の気持ち、だっけか」

「そうそう。旅館のためになるように労働すればいいみたい」

「分かった。俺もやる…けど、フィンやディルムッドはどうした?」


ここには二人の姿しか見えない。今回、同行サーヴァントはアーサーとマシュ以外に5騎いる。


「接客向いてない組は、外で猿退治してるよ。なんか、旅館の周りでいたずらする猿が大量発生してるらしくて。所長は休むって言ってたけど、たぶん、なんかやってくれてると思う」

「玉藻の前さん、清姫さん、巴御前さんは屋内業務です。私と先輩も、主に接客サービスをしています」

「なるほどな。じゃあ、アーサーはフィンたちに加わってくれ。俺は立香たちと屋内業務やってるから」


適材適所というか、そういう役回りにならざるを得ないだろう。唯斗も屋内で雑事にあたるしかない。
しかしアーサーは、別行動と聞いて渋い顔をした。


「僕に接客はできない、ということかな」

「王としての風格がありすぎんだよ、客も困惑するだろ。そもそも、騎士がレディに恭しくするのと接客は別だぞ」

「…それは…道理だが……」

「じゃあ話はついたな。立香、責任者は?こちらも話を通しておくべきだろ」


ぱん、と手を打って話を終わらせると、唯斗は立香に旅館の責任者の場所を尋ねる。恐らく厨房にいる、とのことだったため、立香たちと別れてアーサーと厨房に向かった。

厨房が近づくにつれ、アーサーはわずかに警戒した。


「どうした?」

「とても強い気配だ。神性…いや…なんであれ、非常に強い反応がある」

「…分かった」


唯斗も一応警戒しながら、厨房の入り口に立つ。暖簾が深く垂れさがっているため、室内の様子は見えない。いきなり入るのは衛生的によくないだろうことから、唯斗は外から声をかけることにした。


「悪い、旅館の責任者はいるか。カルデアのもう一人のマスターだ」

「ちょっと待つでち!」


中からは、そんな愛らしい少女のような声が聞こえてきた。特徴的なしゃべり方だな、と思っていると、すぐに暖簾からその人物が出てきた。
背丈は確かに少女ほど、しかし赤い和装に小さな雀らしき羽、さらにはそうした外見に似つかわしくない刀を帯刀している。


「カルデアのもう一人のマスターでちね。話は聞いてるでち。藤丸たちにはもう会えたでちか?」

「あぁ。うちのモンが粗相したって聞いた。悪かった、俺も下働きするから手伝わせてくれないか」

「暴力団みたいな言い方でとても真摯なことを言うでちね…でも、カルデアのお歴々は本来お客様としてお迎えしたでち。だから、勤務時間以外はゆっくりするといいでちよ。部屋と食事でせめておもてなしするでち」


その言葉に唯斗は軽く驚く。この期に及んで、客として扱ってくれるらしい。その律儀さともてなそうとする姿勢、山奥の温泉宿、雀たち、伝承からある程度は推測できるが、それにしてはあまりに霊基が大きすぎる。


「…分かった。申し遅れたけど、俺は雨宮唯斗、一応日本の血の方が多い。こっちはサーヴァントのアーサー、ブリテンの騎士王だ。あなたは…舌切り雀、とかか?」

「よろしくでち。鋭いでちね、半分正解でちゅ。あちきの名は紅閻魔、この閻魔亭の女将にちて閻魔大王の名代でち。お客様にお話する内容じゃないでちから、詳しくは控えまちゅが、舌切り雀は権能とちての性質でち」

「なるほどな…神性が感じられたのはヤマ…閻魔大王から与えられた性質か。理解した」


紅閻魔というらしい少女は、この閻魔亭という温泉旅館の女将であり、舌切り雀の権能を持ち、そして閻魔大王の名代であるという。恐らく、その霊基は複数の要素が掛け合わされた、ネモのような複合霊基になっているのだろう。


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