閻魔亭繁盛記−5


「俺は屋内で雑務、アーサーは屋外で猿退治にあたる予定なんだけど、差し支えないか」

「問題ないでち。雨宮には作務衣を支給するでちが、礼装にしまちゅか?」

「あー…いや、ここはそこまでマナも濃くない、俺は礼装化しなくても大丈夫だと思う」

「分かったでち。都市!お部屋に案内するでち!」


紅閻魔は話を終えたと判断し、誰かを呼び出した。案内役のようだが、やってきたのは雀だった。都市、という独特の名前は、十王のことだろう。


「え、この丁稚雀も十王の名代なのか」

「一応そうでちゅが、下働きとしては同じ立場でち」


死者は地獄にて10人の王による審判を受けるが、その裁判官の王を十王という。
死んだ日を1日目として、定められた日数が経過したタイミングで審判を受ける。それが合計10回あるということだ。
現代にも残っているところで言えば、初七日、四十九日、一回忌、三回忌である。これらのタイミングで法要などの行事があるのは、この十王による裁判がうまくいって、故人の魂がより良い来世に行けるよう祈ることが本来の目的だとされる。都市王は一回忌における裁判を担当する。
閻魔王は紅閻魔が名代となるため、丁稚雀はほかに9羽いるということになる。


「チュン!では案内するチュン!労働生産性が上がるのは良いことチュン!」

「…そうだな……」


癖の強い者たちが運営する旅館で働く、ということは不安がないわけではないが、こうなったらやるしかない。社会勉強と思って割り切ったほうが楽だろう。

そうして案内された部屋は、上層階の非常に良い部屋だった。ホテルで言えばスイートにあたるレベルだ。
各サーヴァントや所長が一人一部屋になっているとのことだが、唯斗は同じ部屋でいいと申告し、二人で一つの部屋に入る。

和室のため、部屋の入口でブーツを脱いでから上がると、大きな窓からは広大な森林が見渡せた。
広い部屋には上質な黒檀の机、置かれたお茶も一級品。調度品も気品があり、細部まで手入れが行き届いていた。


「とても良い部屋だね」

「あぁ、こういう旅館って初めてだから…日本の家を思い出すけど」

「君の屋敷も立派だったね。さて、このサムエ?とやらに着替えるかい?」


アーサーは作務衣を手渡して尋ねる。何か固有名詞だと思っていそうだ。


「そうだな。ちなみにこれ、住職や僧侶、神主が法務以外の雑務をする際に着るものが原型なんだ。今では、こういう旅館や日本料理店のスタッフが着る制服としても使われる」


作務衣を広げながら、紐の位置などを確認する。日本の実家でもたまに部屋着として着ていた。
本来の作務衣は、病院の入院患者などが着るような貫衣であり、腰あたりの紐で止める。ただ、こうした旅館の制服などでは、その上からごく短い丈のエプロンをして、帯で固定する。

この作務衣は、袖に炎めいた意匠がついた赤い作務衣に、上から黄緑色の長めのギャルソン式エプロンを纏って、同じ色の太紐で留めるものだ。


「じゃあ僕は席を外しているから、着替えていてくれ」

「え、今更だな」

「…正直、和装は防御力が低いだろう。それを肌身に着ているところを見ていたら、手を出してしまう」

「…あ、そ」


何を言いだすかと思えばそんなくだらないことで、唯斗は呆れながら礼装のベルトを外す。アーサーはすぐに部屋を出ていった。防御力とはなんのことだろう。
確かに礼装ではないが、と思ったところで、一応、唯斗は礼装に付属させている細かい装備だけは持っておくことにした。主に護符やサバイバルナイフなどだ。
ポーチからそれらを机に置いていくと、その中に見慣れない小さなボトルが見えた。

手に取って、唯斗はぴしりと固まる。

どう見ても、ローションだ。そういえば、今回はダ・ヴィンチがポーチを用意してくれていた。
どんな気遣いだ、と顔を赤くしながら、唯斗はそれをポーチにしまって、部屋の隅に置いておいた。きっと、そのうち夜に出番があることだろう。


204/359
prev next
back
表紙へ戻る