回顧−9
7月に入り、レイシフト計画の詳細が発表された辺りからだった。
Aチームの重要性とその予想される功績の大きさは、キリシュタリアのような当然の存在はともかくとして、平凡な魔術師でしかないカドックに対するヘイトとなりつつあった。
唯斗へのそれは相変わらずだが、レイシフトが近づいてきたことでカドックに対しても同様の目が向けられるようになったということだ。
カドック自身はそんなものを撥ね除けてトレーニングを続ける胆力を持つ人物であるが、それはかえってマスター候補たちをさらに苛立たせたようだ。
食堂にて、Aチームから離れて一人で食事をしていたカドックに、おもむろに数人のマスター候補たちが近づいた。
Aチームと一緒ではないのは、恐らく自主トレをしてから食事にしたからだろう。
唯斗は食堂で簡単に食べられるゼリーだけを食べていたが、カドックに向かう者たちを見てスプーンを止める。
広い食堂だが、マスター候補たちはカドックに声をかけに行く者たちを見てざわめきを小さくした。様子を明らかに窺っている。恐らく、あのマスター候補たちは名門の出だ。揃いも揃って白人ばかり、顔立ちから英国やドイツ、フランスの出身だろう。
カドックはポーランド出身らしく、EU内でも後進的な移民排出国である東スラヴの者であるということもあって、余計に彼らはカドックを疎ましく思っているようだ。
「カドック・ゼムルプス、お前いつまでAチームに居座っているつもりだ?キリシュタリア様に取り入って、ヴォーダイムの分家と結婚して跡取りの算段か?まぁ、お前みたいな平凡なヤツは、今から次の世代を考えないといけないもんなぁ」
金髪の男の言葉に対して、カドックはちらりとそちらを一瞥しただけで、すぐ手元のスープに視線を落とした。興味がない、とはっきり顔に出している。
「文句があるなら上に言えばいいだろ、アニムスフィアのロードに」
「…もう言っているとも。だが、あの禁忌の家の人間まで登用する始末だ。まったく、天文科は何を考えているんだ」
唯斗のことも、ご丁寧にオルガマリーに直談判を続けているらしい。涙ぐましいことだ。
いくら若いロードとはいえ、アニムスフィアの直系に対してこの物言いは危険だ。だが、それを口にするほどの鬱憤が溜まっているようだ。そもそも時計塔は学科間での敵対心もそれなりに強く、ロードの分家筋などであればなおさらだ。
男は言葉を続ける。
「まぁそれでもあいつはいい。何せ、実力は確かだ。まともに訓練さえすれば、とてつもない実力を発揮するだけの魔術回路がある。だがお前はどうだ?貧弱な魔術回路、200年程度の家系、実力もなくレイシフト適正値だけでAチームに配属されている。おかしいと思わないか?」
「その通りだ、カドック・ゼムルプス。恥を知れ、よくもその程度の家柄と実力でキリシュタリア様の仲間を気取っているものだ」
「まったく、雨宮も残念だよなぁ、父親のことがなければ今頃お前の代わりにAチーム配属だったろうに、もったいない」
その辺りで、ついに唯斗は立ち上がった。今まで感じたことのないタイプの感情に自分で戸惑うが、少なくとも怒りを含む感情であることは確かだ。
客観的にそんなことを思いつつ、唯斗はつかつかと男たちの方へ向かっていく。その唯斗に気づいた周囲のマスター候補たちは、ポカンとこちらを見ていた。
カドックもやってきた唯斗に気づいて驚いて目を見張る。
その視線に気づいた男たちも、唯斗がすぐ近くに立ったことで驚いた。