回顧−10


「なっ、雨宮…?何か用か、禁忌の家の人間風情が」


こんなことをするなんて、まったく、らしくない。それは自分でも思うことだ。だが、直接言わねば気が済まなかった。いや、口にしておかないと後で背後から刺してしまうかもしれない。


「確かに俺には優れた魔術回路がある、お前らよりも遥かに優れたもんがな。でもそれは、ただ持って生まれただけのものだ。俺が努力の末に獲得したものじゃない。でもカドックは努力してこの場所をつかみ取った」

「だ、だからなんだ。努力が必要な時点で落ちこぼれだろうが、魔術師はそういうものだ」

「魔術師としてのお前らを評価するつもりはない。でも一つ言えることはある。持って生まれたものだけでここにいる怠惰な人間、それが俺とお前らだ。自分の怠慢を誇る恥を知るべきなのはお前らだろ」

「なに…ッ!?」


男たちはすぐに怒りで顔を赤くした。一方、カドックは即座に立ち上がり、おもむろに唯斗の手を掴む。


「なにやってんだあんた、ああもう、とりあえずこっち来い!」


カドックに手を引かれ、唯斗は食堂を出る。そのままカドックは、上階に上がってある部屋に入った。
どうやらカドックの部屋のようで、自動的に照明がつくと、きっちりと手入れされた観葉植物に、あちこちに置かれたCDジャケットなどが目についた。


「カドック…?どうした?」

「いやそれを聞きたいのはこっちだ、どうしたんだお前、柄にもないことして」


確かにその質問は道理だ。なぜ、あんなことを言い放ったのだろう。
唯斗は少しだけ考えて、正面に立って5センチほど高い位置からこちらを見下ろす金色の瞳を見上げる。


「…自分でもあんま分からない。でも、俺が何か言われるのはどうでもいいんだ。ずっと、いろんな人に否定され続けてきたから、慣れてるし。でもカドックが言われてるの見て、なんか腹が立った」

「…、」

「もしかしたら、カドックやAチームの奴らは、俺をまっすぐ見てくれたからかもしれないな。親がどうこう、ってのは気にせず、俺を俺として見てくれてるだろ。だからちょっと、特別なのかも。その中でもカドックは、ペペロンチーノみたいな変人たちと違って一番まともだし、何より、前も言ったとおり、初めてすごいヤツだなって思った魔術師だったから」


唯斗の言葉に、カドックは小さく息を飲む。
そして、力んでいた肩を下ろして、声のトーンを僅かに落とす。


「……あんたが認められないのは、あんた自身じゃどうにもならない理由だろ。でも、置かれた立場は脆くて、やるべきことを無理矢理にでもやらないと、居場所すらなくなる、生きることすら難しくなる。あまりにも、見返りがない。なのに、カルデアであんただって努力してる。それがただのタスクなんだとしても、それは紛れもなく努力だ。見返りのない努力だ」

「…そうかもな。そんな深く考えたこともねぇけど」

「それなのに、僕の努力が貶されることには、怒ったんだな」

「自分でもちょっと驚いた」

「……変なヤツだな、唯斗。ペペたちのこと、言えないだろ」


そう言いながらも、珍しく、カドックは毒気のない小さな笑みを浮かべた。まるで「仕方ないな」とでもいうような、そんな薄い笑顔だ。それに、初めて名前を呼ばれた気がする。
どんなことを考えて思っているのか、唯斗には分からない。だが、その笑み以上の理解はいらなかった。


「…そうかもしれないな」


ただそれだけ返すと、またひとつ、互いに小さく笑いをこぼした。


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