閻魔亭繁盛記−16
アーラシュは唯斗を抱きかかえたまま廊下を移動し、適当なところで唯斗を下ろす。
「あ、ありがとな、アーラシュ。助かった」
「んー…」
とりあえず礼を述べると、アーラシュは普段の明朗な返答ではなく、そんなあいまいな返事をした。何か考え事か、それこそ千里眼でも使っているのか、と思っていると、突然、唯斗を壁際に追いやった。
背中に壁が触れて、すぐ目の前にアーラシュが立っている。壁ドンというよりは、単に唯斗が壁に寄りかからされているだけだが、いったいどうしたのかと見上げる。
「助かった、と思われちゃあ困るぜ、マスター。俺は回収しに来た、としか言ってねぇぞ?」
「え…えっ、それ、」
つまり、と思い至ったが、それは遅かった。いや、唯斗にしては早かったはずだが、目の前の男から逃げるには致命的に遅すぎたのだ。
アーラシュはおもむろに、まだ大きく緩んだままだった作務衣の前襟をさらに大きく開くと、唯斗の胸板全体を外気に触れさせた。そのまま、唯斗の足の間に自身の足を差し込み、肩を手で押さえ、首筋に顔を寄せる。
「んっ、ちょっ、おい…!」
「日本の服ってのは、どうしてこう、防御力が低いンだ?」
そう言って、アーラシュは首筋から鎖骨と辿り、そして胸元に至ると、まだ長可に弄られて熱を持っている先端に口づけた。
「ぅあッ、ん、ばか、やめろ、」
アーラシュの肩を押して引き離そうにも、やはり当然ながら、唯斗の腕力では到底敵わない。
「あァー…かわいいな、唯斗」
恍惚としたように言って、アーラシュは胸元から口を離し、すぐ傍から唯斗を見下ろす。ふと、アーラシュから酒の匂いが香った。
「…まさか、酔ってるのか?」
「いや、ほろ酔いかどうか、ってとこだな。酔った勢いとかじゃなく、素面でも襲うぞ、俺は」
「どや顔で言うことじゃねぇだろ…!」
アーラシュは、あの静謐のハサンですら僅かに触れられるほど頑強な体をしている。アルコールに対する耐性も、英霊であることを差し引いても極めて高い。恐らく、酔っ払うということはあり得ないだろう。
ただ、気分の良さに身を預けている節はあるようで、だからこそこんな廊下で唯斗に手を出しているのだ。
アーラシュはぐっと膝で唯斗の股を押し上げてきて、僅かに反応しているところを直接刺激される。
「ぁっ、ちょ、マジで、んっ、」
「……やっぱ連れ込むか…?」
低く言いながら、アーラシュは乳首を再び舐め上げて、もう片方を指先でこね回した。ジンジンとした鈍い快感が下腹部に溜まっていく。
「ひっ、あッ、アー、ラシュ…っ!」
「…ま、タイムアウトだな」
すると、突然アーラシュは体を離して一歩引いた。直後、アーラシュが立っていた場所にヒュンと勢いよく何かが通り過ぎる。
離れた廊下に落下したのは、空になった一升瓶だ。あのスピードで直撃すれば、英霊とて出血するだろう。
「なんのつもりだ、アーチャー」
「森から助けてやったお駄賃みたいなもんだ、セイバー。ていうか、こんな緩い格好のマスターを一人にするなんざどういう了見だ?」
現れたのはアーサーだ。壁に凭れて息を切らす唯斗のところまで来ると、肩を抱きかかえて支えてくれる。その翡翠の目は据わっており、強い敵意に満ちていた。
「なんであれ、マスターに手を出す道理はないだろう」
「そうかぁ?マスターが拒否しないならいいだろ。ルルハワんときに、そういう話になったと記憶してるがなぁ」
「いや拒否はしたけどな」
「あんな弱い拒否じゃあ、嫌よ嫌よの域を出ねェな」
呆れたように笑うアーラシュに、唯斗はため息をつく。エミヤや長可もそうだったが、どうやら唯斗はもっと強い拒否を示してもいいらしい。
しかし、アーサーは唯斗をさらに強く抱き締める。