回顧−11
一通り、Aチームと過ごした3ヶ月のことを話し終えた。
カドックとの一件の後、爆発事故が起こる7月末までの1ヶ月ほどは、カドックとよく一緒にいた。
カドックがよく聴くというロックバンドの音楽を一緒に聴いたり、神話が好きなカドックと神話の解釈について意見交換をしたり、一緒に魔術の訓練をしたり、何かと一緒にいた気がする。
そんな二人を見て、ペペロンチーノやベリルもからかいつつ楽しげにしていた。ダ・ヴィンチやロマニも、どこか安心したようにしていたのを、今ごろ思い出す。
「…俺もカドックも、カルデアで見せていた姿は、周りを心配させてたんだろうな。俺は無気力な機械人間、カドックは自分を追い詰めながら努力を続ける繊細な人間として。だから、俺とカドックが、今にして思えば普通の友人みたく過ごしていたところを見て、ロマニやダ・ヴィンチは安心してたんだ」
「…それに気づけるようになったことは、君にとってとてもとても大事なことだ」
「そうだな。でもやっぱ、後悔先に立たずっていうか…覆水盆に返らずっていうか…今頃気づいても、もう、遅いのにな。ろくにお礼も言えないままだった」
ロマニもダ・ヴィンチも、気づいたときにはいなくなっていた。彼らにどれだけ見守られてきたのか理解した頃には、もう、彼らはいない。二人とも、唯斗たちを守ってその最期とした。
「マスター…」
「意味のない『たられば』だって分かってる。でも、今の俺なら、Aチームのヤツらともいろいろ話せたと思う。特にカドックやオフェリア、ペペロンチーノあたりは、もっとマシな関係性を築けた。ロマニにもいろいろしてやれた。ダ・ヴィンチにもたくさん伝えられた。いつも一歩、遅いんだ。そのスタートを、人間としてのスタートラインを超えるのが、遅すぎたんだ」
いつの間にか握りしめていた拳を、アーサーはそっと包んだ。防具のない素手で、柔らかい温もりが伝わってくる。
「遅きに失した人だけではないだろう?第七特異点からずっと、藤丸君のことを励まし続けた。先ほども、マシュのことを気遣っていた。何度も、そしていろいろな人物が伝え続けてきたことだけど。君の優しさも誠実さも、ちゃんと周りは理解していたよ。君のそういうところにドクターもダ・ヴィンチ女史も助けられてきた」
「アーサー…」
「確かに君が能動的に動けたのはごく最近のことなんだろう。でも君が無意識にやっていたことは、すでに多くの人の助けになっていた。何より、先ほど僕がマシュに言ったことは、君にも当てはまる。いてくれるだけで、藤丸君やマシュには心強いんだ。もちろん、僕が一番心強いと感じている。誰よりも僕が、君を必要として、君に助けられてきたんだよ」
先ほどと同じだ。アーサーの言葉だから、意味がある。恋人であり騎士王であるアーサーの言葉だからこそ、唯斗には、これ以上ない励ましの言葉となるのだ。
唯斗はアーサーに深く抱きつき、その胸元に顔を埋める。後頭部を撫でられ、広い背中に手を回した。
「…アーサー、次顔を上げたら、俺は、立香やマシュを支えるために頑張る。俺よりもずっと、カルデアのこと、ショック受けてるはずだし…グランドオーダーは、途中からしか立香たちのために意識的に動くことはできなかったけど、今は違う。今度は最初から、俺は立香たちを支える。予備員じゃない、もう一人のマスターとして」
「マスター…」
「だからさ、こんな頼み方すんの、ちょっと変な感じするけど」
そっと唯斗は顔を上げて、至近距離の翡翠を見つめる。
「…俺のことは、アーサーに頼んだ」
「……あぁ、もちろんだとも。君の分まで君を守る。だから君も、守りたいものを守るために戦っていい」
唯斗には凭れられる相手がいる。頼って甘えることができる相手がいる。ならば、唯斗はその分、誰かを守りたいと思った。
その意図をくみ取ってくれたアーサーは、優しく頷いてくれた。
「…ん、じゃあ、アーサーのことも守るから、アーサーはちゃんと俺のこと見てろよ」
「君のことしか見えていないよ」
「それは視野狭すぎだろ」
「ここはドキッとするところだろう?」
最後にそんな軽いやりとりをして、二人揃って小さく笑う。
襲撃が起きてから、唯斗は初めて笑ったのだった。