神代巨神海洋アトランティスI−2


待ち伏せしていたのは、イーリアスに登場するアキレウスの盟友であり、オデュッセイアの主人公であるオデュッセウス。
イタケー王ラエルテスとアンティクレイアの子であり、アキレウスをトロイア戦争に引き込んだ。その知略は有名であり、理性の代名詞としてその名を哲学に使われることもある。
トロイアを陥落させるべく、巨大な木馬を使ったトロイの木馬はあまりに有名だろう。

そのオデュッセウスが率いるのは、オリュンポスの防衛軍だという。ギリシア神話において神々の住まう場所として知られるオリュンポスを守る軍を指揮するという以上、やはり大西洋異聞帯とはギリシア神話の世界で間違いない。

艦隊は徐々にボーダーを包囲するように海上で編成を組みつつあり、こちらの動きを封じるために莫大な魔力を持った怪物が放たれている。加えてカイニスまでこちらに接近していた。

迎撃するため、ボーダーはいったん海上に浮上、甲板のみ海面に出して足場とし、立香とマシュ、唯斗、アーサーは甲板に急いで飛び出た。


「あれは…っ、ケルベロスか…!?」


唯斗は、こちらに猛スピードで接近する巨大な怪物の姿にそう当たりをつけた。三つの犬の頭で構成される怪物だが、やたら機械的というか、頭以外の部分はほとんど無機物でできているように見える。炎を纏うリング状の機械に三つの頭がついている。

ケルベロス、テュポンとエキドナの子であり、ハデスの統べる冥界の番犬である。

マシュの盾を介した一時召喚を行うことができるが、甲板という限られた空間では物理的な制限がある。何より、戦闘でノーチラスが傷つくことは最小限にしなければならない。


「唯斗、俺はシグルドでいく」

「分かった、じゃあ俺はエミヤ出す」


立香はすぐにシグルドを召喚し、唯斗は遠距離攻撃で揃えるためエミヤを召喚する。
現れたシグルドは、ノーチラスに接近するケルベロスを見ても冷静なまま、短刀をくるりと回転させて構える。


「敵性体を視認した。マスター、あれの討伐で相違ないか」

「うん、よろしく」

「承知した」


シグルドは複数の短刀を次々とルーンで射出してケルベロスに走らせる。
一方、唯斗の目の前に現れたエミヤも、弓にニードル剣をつがえた。


「ケルベロス、伝承よりも機械的だな」

「そうらしい、エミヤは基本的に遠距離で頼む。アーサーはシグルドとエミヤの攻撃の合間に近距離攻撃だ」

「了解したよ」


エミヤの矢が爆撃となってケルベロスに爆発を引き起こし、シグルドの短刀が頭の一つに無数に突き刺さる。
ケルベロスの攻撃をマシュの盾が受けて、アーサーが接近してきたケルベロスの頭を下から聖剣で突き刺した。

いったん引いたアーサーだったが、シグルド、エミヤもケルベロスを睨み付けて焦りを滲ませる。


「…固すぎる、これは……」

「まずいぞマスター、あれは倒しきれない」


アーサー、エミヤはともに攻撃の通らなささに苦虫をかみつぶしたような顔をする。シグルドは表情こそ変えないが、同じ意見のようだ。


「当方も同意する。あれはこの場で仕留められるものではない」

「動けなくして撤退するしかないか」


唯斗がそう言うと、通信で聞いていたブリッジが動いた。


『僕の宝具で頭突きをする、しっかり掴まって!』


ネモがそう言うととともに、足下のノーチラスが光を纏ってケルベロスへと直進する。エミヤとシグルドはいったん退去して、アーサーが唯斗を、マシュが立香を支えた。
海面を走るノーチラスの衝角は、高度な魔力の光を纏ってケルベロスに突っ込むと、その推進力を減衰させずにケルベロスを吹き飛ばした。

飛ばされたケルベロスは海面に落下して浮かぶと、動きを止める。仕留めてはいないが、動けないだろう。

しかし、ケルベロスが浮かぶ向こうには、別の高魔力体が海上に聳えていた。巨大な女性のような白い怪物であり、上半身は女性、下半身は蛇の姿をしている。あれは恐らくエキドナ。一説にはガイアとタルタロスの子とも言われるが、出自は不明だ。
メソポタミアのティアマトと同じく百獣母胎の権能を持つ。

ケルベロスがあのエキドナから産み落とされたものだとすれば、これから同じような個体が押し寄せてくる可能性がある。すでに包囲陣は完成しつつあり、着実に追い詰められていた。


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