神代巨神海洋アトランティスI−6


轟音、閃光、衝撃、そして、大量の水。

すべての終わりを直感した唯斗だったが、目を閉じてそのときに備えていた矢先、突如として体が水の中に投げ出され、ぎょっとして口を開いてしまう。
途端に大量の水が気管に入り、咳き込んでさらに水を飲み込みそうになったが、なんとか堪えて目を開ける。


「ッ!!!」


塩水のせいで目はかなり痛むが、幸い、光が見えて、冷静になる。いったん体の動きを止めて、咳き込みたいのを我慢しながら静止すると、体が浮き上がりはじめ、ようやく落ち着いて上へと泳ぎ始めた。


「っぷはッ!げほっ!げほッ!!」


そしてようやく海面に顔を出した途端、大きく息を吸い込み、激しく咳き込み、またそれで沈みそうになったため、なんとか体から力を抜いて足をなるべく海面に浮かせようと試みた。
なんとか海面に並行になるように体を整えれば、安定して顔が外気に触れる形で浮かび続けられるようになる。

青空にはところどころ白い雲が浮かび、穏やかな海と空の青が広がる。
だが、視界を動かすと、遠くに白い煙が空に立ち上っていた。恐らく、先ほどの攻撃によって一瞬で蒸発した海水による水蒸気だ。衝撃波のせいだろう、たなびく雲も爆心を中心とするように弧を描いていた。

離れた位置にいることからも、恐らく虚数潜航は成功。しかし不安定なままだったため、実数域に戻る際、唯斗の体は座標がずれて船外に放り出されてしまったらしい。体がバラバラにならなかっただけで僥倖だ。
周辺に他のスタッフの姿はなく、金属製の瓦礫や破片もない。ボーダーが大破して浮かんでいるのではなく、やはり実数浮上時の座標変動だろう。

体を少し動かして向きを変えて、他の方角にも視界を向けると、緑が見えた。なんとも幸運なことに、陸地が近くにある。
いや、現実にはこの大西洋のど真ん中に陸地などは存在しないのだが、今はなんでも良かった。

唯斗は呼吸を整えてから、姿勢を変えて泳ぐ体勢になると、陸地に向けて平泳ぎを始めた。短い呼吸をたくさん繰り返しながら、冷静に、体を丁寧に動かして少しずつ陸地へと近づく。
普段のタイムであれば、30分ほど頑張ればあの島に到着するだろう。

立香は、マシュは、アーサーは、ダ・ヴィンチたちは、大丈夫なのか。ボーダーは無事なのか。湧き上がる不安は、ともすれば体を硬くしてしまいそうになり、唯斗は頭から余計な思考をすべて振り払って、一心不乱に体を動かした。

そうしてなんとか泳ぐこと15分、途中でふと、結界を海面に張ってその上を歩けばいいのではと気づき、そこからは結界を歩いて移動することで陸地に到着した。もちろん、魔力を探知される可能性も考慮したが、空気中に満ちている神代のマナの濃度を考えれば問題なさそうだった。

白い砂浜に到着すると、さすがに疲労がどっと押し寄せ、砂に座り込む。黒い極地礼装に砂がついてしまうが、びしょ濡れになってより黒が濃くなっている分、砂が目立つ。


「はぁっ、はぁ…っ、アーサー、アーサー、聞こえるか」


息を切らしながら、唯斗はアーサーに魔力を籠めて呼びかける。あまり期待していなかったが、念話は奇跡的にも繋がった。


(マスター!良かった、無事なんだね!?)

(なんとかな。陸地に到着したけど、今どこだ?パス的には離れてないっぽいけど)

(あぁ、恐らくすぐに合流できる。身の安全が守れそうなら、そこから動かないでくれ)

(了解)


アーサーも無事のようで、まずは一息つく。あとはアーサーを待つだけだが、身の安全とは具体的に何を意味するのか。
警戒して辺りを見渡していると、そこに突然、森の中から砂浜に現れた影があった。

イノシシ型の魔獣だ。どうやら、陸地には普通にこうした魔獣が生息している環境らしい。魔獣はこちらに気づき、近づいてくる。後ろからはもう一体現れた。合計2匹を相手にするには、こちらのコンディションはあまり良くない。


天よ、地よ、真実を見よ(ドゥアル エブル グウェレット グウィル)


先制攻撃として、唯斗は詠唱して左手の刻印を起動する。すぐに、魔獣たちの上から魔力でできた巨石メンヒルが落下してきて魔獣たちを直撃する。

しかし、魔獣たちは血を流してはいるものの、少し怯んだだけでこちらへの接近を止めない。


「っ、固いな…くそ、アーサーはまだだな…これは…」


逃げるとすれば、海上に結界を展開して移動して近づけなくする、というのが最善策だろう。体力は消耗しているが、魔力には余裕がある。
アーサーとはまだ距離がある、ここは戦闘よりも退避に重きを置いた方がいい。アーサーが来るまでの耐久をすれば、と思っていたところ、突如として銃声が轟いた。


「なッ…!?」


驚いて身を竦めたが、魔獣の一匹が血を噴き出して倒れる。さらにもう一発銃弾が放たれ、もう一匹も仕留められた。普通の銃弾ではない。
味方かどうかはまだ分からないため、発砲があった方角を見ると、浅黒い肌の長身の男が立っていた。近世の銃を手にしたイケメンで、こちらを見て柔らかく微笑む。


「やあ、こんにちは。お困りと見て助けたが、怪我はないかな?」

「あ、あぁ…ありがとう、助かった」


男はサーヴァントだろう、近世の船乗りだと思われる。服の意匠からしてイングランド系か。
サーヴァントはこちらにやってきて、地面に膝を着いたままの唯斗に手を差し出す。

とりあえずその手を取って立ち上がると、男はさらにニコリと微笑んだ。


「私はバーソロミュー・ロバーツ、先ほど合流したカルデアの人たちから事情を聞いて、行方不明者の捜索をしていたんだ。君はカルデアのマスターの一人だね?良かったらお名前を聞いてもいいかな、濡れてややメカクレとなった素敵な少年」

「…、…っ、?」


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