神代巨神海洋アトランティスI−7
前半は流暢に事情を説明してくれたため、すぐに理解できた。このサーヴァント、最後にして最大の功績を挙げた大海賊バーソロミュー・ロバーツが、カルデアと合流して唯斗たちを探してくれていたところ、魔獣と会敵する唯斗を発見した。
そこまではいい。だが最後に付け足されたそれは理解ができなかった。
とりあえず名前を聞かれているのは理解したため、唯斗は答える。
「雨宮唯斗という、カルデアのマスターだ。バーソロミューは汎人類史の英霊だよな」
「そうだとも。記憶は少し封じられているけれどね。そこはカルデアの他のメンバーと合流してからだ。さて唯斗、少しだけ触れても?」
「え、あぁ…」
バーソロミューはそう尋ねて、唯斗もとりあえず頷く。バーソロミューは至近距離で微笑むと、おもむろに唯斗の前髪を少しずらした。濡れて額に張り付いていた髪の毛が目元にかかるようにされてしまい、視界に茶色の毛先が見える。正直うっとうしいが、バーソロミューは徐々に鼻息を荒くし始めた。
「うん…いい……本当はもう少し長いと完璧だったが、この顔立ちで完璧なメカクレだったら私の理性が保たなかった、このくらいがちょうどいい。そう、理性の長さ。これは理性のメタファーのメカクレと言える。濡れているところも色気が増してグッドだ」
「…、あー…もういいか?髪邪魔なんだけど…」
唯斗は前髪をどかそうとしたが、その手をがしりとバーソロミューに掴まれた。固定されてしまい、前髪をずらせない。濡れて張り付いているため、頭を振っても払えないだろう。
「すまない、もう少し堪能させてくれ。先っぽだけでいいから」
「え、お前、毛先のこと先っぽとか呼ぶのか…?キモ……」
「うん、メカクレから覗く濡れた瞳が睨み付けるのも良いものだ、とてもいい。下腹部がきつくなってきたから、場所を変えてもいいかな?」
「場所を変えるのは君だけだ、バーソロミュー」
そこに冷えた声で割り込んだのはアーサーだった。バーソロミューは速やかに手を離す。
「これは我らがブリテンのキング・アーサー。すまないね、とても素敵だったものだから」
「性癖を人に強要するのは紳士ではないよ」
アーサーは呆れてそう言うと、唯斗を緩く抱き締める。
「あぁ、良かった。無事なのは分かっていたけれど、気が気でなかったよ。海に投げ出されたんだね、よく冷静に陸地まで辿り着いた。もう大丈夫だ」
「ん…よかった、アーサーも無事で」
思わずその肩に顔を埋めて抱きつくと、より深くアーサーは唯斗を抱き締めた。それを見ていたバーソロミューは感心したようにする。
「ほう、アーサー王が魔術師の少年と…いや分かるともアーサー王、唯斗のメカクレの素養は目を見張るものがある。両メカクレとなり、一陣の風が前髪を少し持ち上げ、そのアルプスの雪解け水のような瞳と目が合ったら…いけない、想像するだけで達してしまいそうだ」
「キモ」
「ありがとう」
こうした直截な言い方はまずしない唯斗だが、どうしてか口を突いて出てしまう。どうやらこの男は、前髪で目が隠れている様に性的な興奮を覚える奇特な性癖の持ち主らしい。
アーサーはため息をついて、唯斗を隠すようにしてバーソロミューとの間に立つと、唯斗の腰を抱いて森を見遣る。
「バーソロミュー、マスターを助けてくれた君を聖剣の錆とするのは気が引ける。集落まで案内してもらっても?」
「もちろんだとも。ところでアーサー王、前髪を伸ばすご予定はおありかな?」
しかもこの男、メカクレなら守備範囲が極めて広くなるらしい。唯斗はむっとして、アーサーの影から出てバーソロミューを睨み付けた。
「アーサーはこれで完成されてるからいいんだよ。隠したらもったいないだろ、せっかくオーロラを閉じ込めたエメラルドみたいな瞳してんだから」
「っ、マスター…」
「……あ、今のなし。忘れろ」
そして、つい口が滑ってしまった。とんでもなく恥ずかしい言い方をしてしまった気がする。以前、北欧でアーサーの瞳をオーロラに喩えてしまったことがあったが、この翡翠の瞳と目を合わせるのが好きな唯斗は、それを極めてキザったらしい言い方で表現してしまった。
アーサーは少し頬を染めて唯斗を見下ろしている。美辞麗句など聞き飽きているだろうに、今更何をときめいているのか。
自爆して顔を赤くしてアーサーに隠れた唯斗に、バーソロミューは「ははは」と声を上げて笑った。楽しげなそれは、愉快な海賊のそれだ。
「可愛いらしいところがあるんだね、君は。メカクレでなくとも魅力的なわけだ。まあいいさ、マシュという素晴らしい逸材にも出会えたわけだしね」
「っ、マシュも無事なんだな。立香は?」
「藤丸君と君だけが行方不明だったんだ。藤丸君も、バイタルは計測できているから無事なのは確かだ。ボーダーが漂着したこの島の名はヘスティア島。これから集落に向かう、そこで状況の確認をしよう」
残るは立香との合流だけとなった。汎人類史の英霊ともこうして出会えた以上、状況は改善したと思うしかない。
どれほど絶望的な戦力差であっても、諦めるという選択肢だけは、常にカルデアには存在しないのだ。