神代巨神海洋アトランティスI−9
漂着から3日目、一行はバーソロミューの案内で神殿へと向かうことになった。
やたら機械的な廃墟が緑に覆われた不思議な光景の中、集落からやや離れたところでそれぞれ合流して、神殿のある道を前にする。
いよいよ、本格的な異聞帯探索の開始だ。
晴れ渡る青空の下、ホームズは立香に声をかける。
「それではミスター藤丸、マスターらしく、出発の音頭を…」
「待て待て」
しかし、それをゴルドルフが遮った。その広い背中にはネモを背負っている。
「せっかく私も同行しているのだ、ここは一つ、私に任せなさいよ」
「では所長、どうぞ!」
立香は特に断る理由もなく、ゴルドルフに任せる。そういえば、ここのところゴルドルフを「新所長」とは呼ばなくなった。
ゴルドルフは軽く咳払いをしてから、キリッとした表情になる。
「それでは諸君。しゅちゅ撃だ!!!」
草原を駆け抜ける風の音が辺りに響く。沈黙の中、ゴルドルフは何事もなかったかのように再び口を開いた。
「出撃だ!!!さあさあ何をもたもたしている、出遅れたら容赦しないぞ」
ゴルドルフは色々誤魔化すように、道を走り出した。一本道のため迷うことはないだろうが、魔獣も出る島だ、慌てて立香とマシュが走って追いかけた。
「所長〜!!待ってください!!」
「マシュ・キリエライト、走ります!!」
「やれやれ、第五にして最大の異聞帯だというのに、呑気なものだなぁ!」
ダ・ヴィンチは呆れたようにしながらも、どこか優しい笑みを浮かべた。ホームズもやれやれという顔をしている。
バーソロミューはそれを見て楽しげにした。
「いや、だからこそいいのだろう。なるほど、確かに4つの異聞帯を踏破しただけある!」
「だろーう?」
「では、我々も行こうじゃないか。ところで前髪で目を隠さない?」
呼吸のように性癖を押しつけるバーソロミューにもため息をついてから、唯斗も仕方なく走ることにする。さすがに危険だ。
「はぁ…アーサー、俺たちも行こう」
「はは、そうだね」
アーサーも小さく笑ってから、唯斗と並んで走り出す。こうした緩んだ空気は、この異聞帯に来て初めてかもしれない。それがとても大事なことだと、これまでの旅でよく理解していた。
それは前のカルデアと同じものではないが、今のカルデアも、十分に素晴らしいものなのだろう。
そうして念のため走り出した二人だったが、前方でゴルドルフの背後に魔獣が現れたのを見て、さすがに肝を冷やした。立香たちも本気で焦っているが、これはギリギリで間に合わない。
この距離では唯斗が結界を張るにしても精度に欠ける。当のゴルドルフは、立香の「後ろ後ろー!!」という声に耳を貸さない。大方、「そんなベタベタな展開あり得るわけがない」というフラグでも立てているのだろう。
「っ、跳躍するぞ!」
「あぁ!」
足に強化をかけて、唯斗は一気に地面を蹴る。アーサーも同じように空中に飛び出すと、一息にゴルドルフのすぐ近くに着地する。
そこから坂道を駆け上がってゴルドルフへと向かうが、魔獣の攻撃が当たる直前、別の影がそれを弾き飛ばし、魔獣を仕留めた。
「あれは…っ、」
恐らく男性のサーヴァントだろう、170ちょっとの立香と同じくらいの背丈だが体格は良く、黒髪で目つきの悪い不良のような出で立ちをしている。
サーヴァントは鎖のついた木刀を、地面に腰を抜かしてへたり込むゴルドルフに向けた。
「問おう。あんたが、俺のマスターだろう?」
「えっ、違うけど…」
「えっ…」
ゴルドルフは冷静に首を横に振る。
サーヴァントもポカンとしており、ようやくゴルドルフたちのところに駆け寄った唯斗とアーサー、そしてほぼ同じタイミングで追いついた立香とマシュも含めて、謎の沈黙が落ちる。
そして、サーヴァントは背中を丸めて首を竦めた。
「…そうか…じゃ、じゃあ…帰ります…お疲れ様でした……」
低い声は凜々しいが、その言葉はあまりに気弱というか、どこかそこら辺にいそうな少年っぽさすら感じさせる。
本当に帰ろうとしている様子に、立香は慌てて制止した。